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Interview

Career

「お祭りを未来に繋ぐ。地域の活性化で日本を元気に」オマツリジャパン代表・加藤優子さん

#新しい時代のウーマンズリーダー

お祭りを支援する会社「オマツリジャパン」を立ち上げ、10年以上にわたり日本全国のお祭りに向き合ってきた加藤優子さんにインタビュー。「お祭りは、生きる力となる」。東日本震災をきっかけにそう感じた加藤さんが現在、 “祭り”を通じて日本を元気にするためにどんな取り組みをしているのか、祭りの意味や機能など、さまざまなことを伺ってきました。

2025.02.26公開

PROFILE

加藤優子/Yuko Kato

1987年生まれ。練馬区出身。武蔵野美術⼤学油絵科卒業後、(株)ピックルスコーポレーションに⼊社。商品開発とデザインを担当。震災直後の⻘森ねぶた祭に⾏った際、地元の⼈が⼼の底から楽しんでいる様⼦を⾒て、お祭りの持つ⼒に気付く。同時に多くのお祭りが課題を抱えていることを知り、2014年に全国のお祭りを多面的にサポートする団体「オマツリジャパン」を創業。2児の母。Forbes JAPAN「カルチャープレナー」選出(2023)。

@yukoomatsuri

祭りを守り、日本を元気にしたい

―オマツリジャパンの事業について、教えてください。

加藤:オマツリジャパンは、「祭りで日本を盛り上げる」をミッションに、地域で行われるさまざまなお祭りを応援する取り組みをしています。お祭りの持つ力で、地域や日本全体を元気にしていくことが目的です。

―もともとお祭りが好きだったんですか?

加藤:その質問はよく受けるのですが、祖母が青森市に住んでいて、毎年のように青森ねぶた祭を見ていたので見慣れていたのでしょう、お祭りは「普通に好き」というくらいでした。

―それがなぜお祭りの会社をつくろうと?

加藤:3.11の東日本大震災がきっかけです。当時私は武蔵野美術大学の3年生で、油絵を専攻していました。小さい頃から画家になりたくて現代アートを学んでいたのですが、震災が起きたときに、「私が今までしてきた美術という分野では人の命を救えない」と思ってしまったのです。

自分ができることってなんだろう、ということを模索していたときに、青森にある祖母の家へ行きました。例年より祭りを観に来る観光客はぐっと減っているように見えて、「今年のねぶた祭りは寂しい感じになるのかなぁ」なんて思っていたのですが、いざ祭りが始まると大勢の観客やハネト(踊り手)がどこからともなく溢れ出てきて、沿道に集まり拍手や歓声をあげ、震災後の暗さを吹っ飛ばすような盛り上がり方だったんです。おそらく地元の人々が来たのだと思うのですが、みんなとても笑顔で輝いていて、その光景にとても感動しました。祭りというものは、一瞬で人の心を元気にするものなのだ!ということに気づいたんです。

―震災後は日本全体の元気がなくなっていたので、毎年当たり前のように開催されていたお祭りだからこそ、心を動かされたのかもしれませんね。

加藤:そうですね。でも、お祭りの素晴らしさを感じていた翌日、新聞を見ると「人口減少が原因でねぶた祭りが存亡の危機に陥っている」という記事を見ました。こんなに人の心を元気にするお祭りを途絶えさせてはならないと思いましたし、お祭りのために自分が培っていた発想力、企画力のようなクリエイティビティが活かせるかもしれない、と思ったんです。

とはいえ、大学卒業後にすぐに起業したわけではありません。そもそもビジネスになるとは思っていませんでした。私は食品メーカーに就職し、オマツリジャパンは社会人サークルのような形で立ち上げ、週末になったら仲間といろんなお祭りに行ったり、ゆるっとボランティアとして商店街のお祭りを手伝う活動をしていました。

―起業したのは、何がきっかけだったんですか?

加藤:活動するうちに仲間が増え、いろんなアイデアが出るようになってきて、「これはビジネスになるのではないか」という考えになってきました。それに、全国には30万件ほどのお祭りがあるといわれており、ご相談も受ける中で、働きながらそれに応えることが難しくなってきたこともあり、これはもう腰を据えて会社にしたほうがいいのかも…と思い始めていたんです。そこで思い切って勤めていた会社を辞め、一人で起業することにしました。その後、自分の思いを世の中に伝えるつもりで、たくさんのビジネスコンテストに応募したところ、ありがたいことに出資のお話もいただけるようになり、一緒に働く仲間も増えたことで、お手伝いだけじゃない、支援の幅も広がってきました。

―お祭り=地域のものというイメージがあるので、ビジネスとしてどう成り立つのかが、気になるところです。

加藤:まず、お祭りには意外に経済効果があるんです。青森ねぶた祭りは約300億円の経済効果があって、青森県のGDPの約1%を担っているとされています。

―そんなに経済効果があるんですね!

加藤:そうなんです。経済の視点で見れば、徳島県の阿波おどり、京都の祇園祭など日本を代表するような大きな祭りはもちろん、各地域の市民祭りや花火大会などもいろいろなステークホルダーがいて、たくさんのお金や人が動きます。しかしながら多くのお祭りでは、人手不足や資金不足、集客のためのアイデアや宣伝方法など、さまざまな課題があります。この課題を解決するためのサービスを提供するのが私たちのビジネスになっています。ただ、お祭りそれぞれにお悩みは異なるんです。起業当初はDX 化、つまりアナログをデジタル化することで一気にその悩みが解決するのでは、と思っていたのですが、そんな簡単な話じゃないんですよね。土地や場所、規模などでも課題解決へのアプローチがまったく違うんです。

―たしかに、それはお祭りに限らないことかもしれませんね。地方創生などでもアプローチはそれぞれ異なる気はしています。具体的にどのような事業を行なっているのでしょうか。

加藤:オマツリジャパンでは現在、年間約100件のお祭りに携わらせていただいており、それぞれの地域やお祭りに寄り添ってサポートさせていただいています。私たちが、支援のために提供しているサービスは、大きく分けて法人事業・公共事業・コンシューマー事業と3つです。

法人事業は、お祭りのお金の問題を解決する事業です。最近では資材も高騰していますし、安全対策への要望から、警備などの人件費も上がっています。それなのに少子高齢化などの影響で地域経済は縮小しつつあり、地域だけでお祭りの運営資金を賄うのが難しくなっています。そのため、資金不足で困窮しているお祭りは多いんです。そこでオマツリジャパンが広告代理店のような役割になり、企業の広告を出したり、商品プロモーションのためのブース出店などさまざまな協賛企画を双方に提案して、協賛金を集めるお手伝いをしています。また、踊りや舞、お囃子や太鼓など、地域の伝統民俗芸能を、商業施設や展示会などのコンベンションに招くイベントサポートも法人事業の一環です。イベントにとっては賑わいの創出につながり、伝統芸能の担い手にとっては出演料を得られるほか、披露の機会が増えることでモチベーションが高まるとの声もいただいており、文化継承につながるのではと考えております。

―公共事業とはどのようなものですか?

加藤: 公共事業は、国や自治体の補助金事業の採択支援、また、地域と一緒に観光コンテンツを造成したり、インバウンド集客のコンサルティングなどをするものです。

そして、コンシューマー事業は、 お祭りの参加体験企画やプレミアムな観覧席の造成、旅行商品の開発などをして、 一般のお客様に販売するものです。最近話題になったのが、青森ねぶた祭のプレミアム観覧席。2022年度より販売を開始し、2024年で3年目の事業になります。昨年は、開催日の6日間で、約800名ものお客様に利用していただきました。最も高額な席で8名利用、税込110万円の席もありますが、地域の味覚を提供したり、ねぶた制作者から直にねぶたの歴史や文化のお話が伺える時間を設けたり、高付加価値型の観覧体験を地域と一緒に造成しています。

―110万円!? すごいですね。

加藤:他に4人席、2人席などもあります。でも、この値段もあって皆様に話題にしていただけるということもあると思いますが、付加価値で得られた売り上げの一部をお祭りに還元し、地域の活性化に繋げていくのがこの事業の根幹にある思いなんです。そのほか島根県浜田市の伝統芸能「石見神楽」では、通常ですと神社で行う神楽を水族館で披露する特別体験ツアーを開催しました。こちらも、新しい鑑賞体験を提供することで、付加価値を感じていただき、地域に魅力を高め、ひいては伝統文化の継承に繋げたいという思いで取り組みました。

―お祭りをゼロから企画することもあるんですか?

加藤:ご相談を受けて企業のイベントや地域のイベントの企画・運営に取り組んだ例はあります。その際も、もともとある地域のお祭り・伝統芸能を活用する方法はないか、という視点を大事にしています。

―古来のお祭りと現代のお祭りでは意味合いが違ってきている気がするのですが、そのあたりはどうですか?

加藤:現在、お祭りはさまざまな意味や価値を内包していると思います。古の時代では、五穀豊穣や平和、無病息災を願い、厄災が訪れた際にはその退散を願い、感謝や祈りのために神様やご先祖さまをまつる儀式がお祭りでした。奈良時代以降、都市ができ、様々な人々が行き交うようになると、人々は自分の祭りが周囲から見られていることを強く意識しはじめます。そうなると山車(だし)や神輿が派手な装飾になったり、サイズが大きくなっていったり、集まった人々を楽しませるための工夫が出てきました。現代はそれに加えて地域の活性化などの目的も加わっています。

―個人が開催するイベントなどでも、「〜〜祭り」と名のつくものが増えていますよね。

加藤:日本人はお祭りに対する概念がとても自由ですし、それで良いと個人的には思っています。居酒屋であれば“から揚げ祭り”、スーパーであれば“いちご祭り”と、とにかく「祭り」とつけたがるじゃないですか(笑)。なので「お祈りがないからお祭りじゃない!」ということでもないのかな、と。そういった意味で、たびたびオマツリジャパンでも、お祭りの定義に関しては議論になります。そもそも、「祭り」という文字がついていない節分の豆まきなど伝統行事なども災いを追い払い福を呼ぶための呪(まじな)いですから、お祭りの一種だと考えます。花火大会も、お祭りといえばお祭りです。なので、「お祭りの定義とは?」という問いに対する答えって、とても難しいんです。

―人によって多様であることが、お祭りの魅力ともいえるかもしれないですね。

加藤:地域ごとに、時代ごとに、概念は変わりますから。言語化するのであれば、地域が残していきたいお祭りに対してサポートしていくのがオマツリジャパンの仕事と思っています。

リーダーに必要なのは、元気で健やかでいること

―さまざまなお祭りと関わっていて、一番のやりがいはなんですか?

加藤:たくさんありますが、やはり地域の人に喜んでもらえることは嬉しいです。 さらに、一緒に働いてる社内のメンバーに喜んでもらえることもすごく嬉しいです。 たとえばコロナが落ち着いてきた頃に、福岡の祭りを開催するにあたってサポートを依頼されたのですが、やはり地元の人々は不安があったようで、うちのメンバーのひとりが何度も福岡に通って他地域の開催例を説明したり、ガイドラインに沿った安全対策の知見を丁寧にお伝えしていました。無事にお祭りを開催できたとき、主催者の方がメンバーのところへやってきて、「本当にありがとう。あなたがいなければ祭りができなかった」ととても感謝していただいたそうです。その話を聞いて、「この会社をやっていてよかった」と心から思えました。

―プライベートで楽しいことやワクワクすることはありますか?

加藤:う〜ん、やはり私にとってワクワクすることは、お仕事なんですよね。家では子育てをしている時間がほとんどなので、仕事をしている時間が楽しい。お祭りの主催者のところに話を聞きにいくと、いかに自分のところのお祭りが素晴らしいかをものすごく嬉しそうに話している顔を見ているのも好きです。誇りを持って語っている姿を見ると、ああ、愛があるなぁ、と嬉しくなります。

―反対に、経営者として大変なことはありますか?

加藤:それはたくさんあります。胃が痛いことばかりです(笑)。でも経営者にとって胃が痛い、眠れないなんて当たり前だと思っていて。まわりの経営者の方々も同じことを言っていますね。ミッション達成のためにはいくつもの問題や課題を乗り越えないといけないと考えています。

―なるほど。リフレッシュしたりもしないんですか?

加藤:リフレッシュも、仕事ですね。「資金が足りない!」というときにカラオケにいったり運動したりしても、根本的な解消にならないですし。楽しいことも苦しいことも、オマツリジャパンでの活動のなかにすべてあると思っています。小さいお祭りも大きなお祭りも、日本全国のお祭りを元気にしたいんです。会社を立ち上げて10年たちますが、いまだに私にできることは何か、常に模索しています。

―お祭りは日本全体を元気にするエンタメの最高峰かもしれないですね。加藤さんはオマツリジャパンのリーダーとして、どんなことを大切にされていますか?

加藤:明るくいること、でしょうか。すべてのリーダーがその人らしいやり方でいいと思うのですが、少なくとも暗くてネガティブな経営者よりは元気なほうがいいのかな、と。とくにお祭りを扱う仕事なのでできるだけ明るい人で在りたいとは思います。嫌じゃないですか? お祭りを扱う会社の代表が、暗くてじとっとしていたら(笑)。

あとはオマツリジャパンとしてだけでなく、すべての経営者においてこれからの時代に必要なことだと思っているのは、稼ぐことだけでなく“Social good”なことも考えていくことが大切だと思っています。経済と社会性の両立が世の中を動かすし、その思いが世の中の人々の心を動かすのだと思います。

―加藤さん自身の人生で大切にしていることは?

加藤:これもやはり同じで、元気でいること。暗くなる原因をいかに排除するか、ということを軸に考えて生きているかもしれません。たとえば睡眠5時間以上はとるとか、ネガティブにならないようなライフスタイルを送ることも仕事のひとつだと思っています。

―これからも日本を明るく、元気にしていきたいですね。本日はありがとうございました!

オマツリジャパン公式サイト



人口減少や少子高齢化など、まちの課題はたくさんあります。しかしながらお祭りが存続できないかもしれないという問題は、なぜか、「ジブンゴト」としてとらえられていなかったような気がします。当たり前のように自動的に行われているような、もしなくなかったら仕方ないような、そんなふうに感じていたような……。

ただ新しいことをするのではなく、お祭りという伝統文化をいかに残していくか、そして地域全体を元気にしていくかということを担っているオマツリジャパンは、今後の日本にとってとても大切な何かを守っているのではないか、と思いました。

これはお祭りだけでなく、さまざまなモノ・コトに関わってくるテーマだと思います。

古き良きものをどう未来に繋げていくのか。

すべての人、地域に問われるテーマかもしれません。



取材・文/竹尾園美

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