やまざきひとみ (1)

Interview

Career

「女性エンジニアになるという選択が幸福度を高める?」Ms.Engineer代表・やまざきひとみさん

#女性はすべてを手に入れられる? #新しい時代のウーマンズリーダー

2021年に、未経験から最短6カ月でエンジニアを目指せるプログラミングスクール「Ms.Engineer(ミズ・エンジニア)」を立ち上げたやまざきひとみさんにインタビュー。エンジニア=男性的な職業というイメージがありますが、「エンジニアこそ、女性が働きやすい、つまり生きやすい職業」と語るやまざきさん。なぜ、エンジニア育成が今の時代のニーズに合うのか。どんなことが実現するのか? その理由を伺ってみました。

2025.01.28公開

PROFILE

やまざきひとみ/Hitomi Yamazaki

1984年生まれ。東京都出身。2007年にサイバーエージェント入社。「アメーバピグ」立ち上げプロデューサー、大人女性向けキュレーションメディア「by.S」編集長などを担当し、2015年に独立。2016年にHINT inc(現在は株式会社アタラシイヒ)を設立し、代表取締役に就任。女性向けメディア「C CHANNEL」編集長などを経て、2021年4月より「Ms.Engineer」代表として、女性の人生を変えること、市場価値が高いエンジニアを輩出し、日本のIT分野の経済成長に寄与できる人材を輩出することを目的に、女性向けITエンジニア教育プログラムを運営している。

@hitomi.yamazaki.mse

「現状維持」ではなく夢を持てる働き方へ

―「Ms.Engineer」の事業内容について、教えてください。

やまざき:「Ms.Engineer」は、女性のITエンジニアを育成していく、フルリモート型のプログラミングブートキャンプです。最短で半年間で学べる育成コースがあるのですが、IT関連の技術が未経験であってもかなり高いスキルが身につけられるプログラムになっています。具体的にいうと、国が認定したITスキル標準(ITSS)というものがあるのですが、7段階あるなかでレベル4まで到達できます。ここまでのレベルにいくと、賃金が上がりやすいという統計データも出ていて、実際にうちの卒業生の平均年収は484万円。これは日本の働く女性の平均年収より約170万円も高いんです。

―事業を立ち上げたきっかけは?

やまざき:きっかけはコロナでした。コロナ禍になり、男性より女性のほうが失業率3倍というニュースを見て、衝撃を受けたんです。これは、企業が女性雇用のリスクをとらなかったことが起こした理不尽な出来事だと思いました。

日本は女性の非正規雇用比率が高く、賃金水準に関しては先進国のなかでもかなり低いといわれています。これだけ女性が働くのが当たり前で共働きが前提の時代になっているにも関わらず、家事・育児の大半を女性が担っているなど、ジェンダーギャップ指数が高い。そういった事実があるなかで、決定的な解決策が出てきていないため、社会が不安定になったときに女性にしわ寄せがきてしまうんです。

私は新卒からサイバーエージェントに入社したのですが、そこは男女間の格差がなく、ありがたいことにジェンダーギャップを感じずに生きてこれました。だからこそ、そうではない環境を改善するために何かをしたい、そしてこの構造を変えないと社会全体が変わらないだろうと思い、事業の立ち上げをしました。

会社のビジョンとして、「日本の賃金格差を解消する」というものを掲げているのですが、「このスキルが身につければ賃金が上がる」という方法を日本で唯一開発できたのでは、と自負しています。

―ITエンジニアは“男性の仕事”というイメージがありました。

やまざき:そうなんですよ。女性には向いていなくて、理系で、難しくて、一日中パソコンにはりついている…というイメージもあるのではないでしょうか。これはメディアの影響も大きいと思っています。IT産業が伸びてきた時期に映画やドラマで黒い服やTシャツを着た男性のハッカーみたいな役がよく出ていましたよね。その印象が世間に植えつけられているような気もします。

実際のところ、向き・不向きに関していうと性別は関係ないし、リモートワークが当たり前にできる今はとくに、子どもがいるママには最適な仕事なのでは、と個人的には思っています。

―メディアがつくっていたイメージは大きいかもしれないですね。あと、ものすごくハードな仕事だと思っていました。

やまざき:もちろんスキルは必要ですし、仕事が楽ということではありませんが、エンジニアって男女間の賃金格差が最も少ない職種なんです。たとえば私は経営者ですが、男性経営者と女性経営者の年収はとんでもない格差がある。営業職なども、差があるといわれています。

それにエンジニアならしっかり技術があれば在宅でもできて、長時間労働をする必要もない。人と会わないとならない、ということもない。とてもホワイトな仕事だな、と思います。

―では、特別な才能などなくても学べば誰でもできる?

やまざき:「人生最後の受験勉強」みたいな気持ちでしっかり勉強すれば、ほとんどの人はある程度のレベルまでいけると思います。新しい科目を勉強するような感じです。「選ばれし者しかできない仕事」ということはまったくないですね。

うちの生徒さんも、95%の方が基準に達して卒業できています。現代において日本の教育に関するジェンダーギャップは少ないので、女性の教育水準は高い。なので、普通に勉強すればスキルが身に付かないわけがないんですよ。なぜか(女性は)できない、と思わされている。エンジニアに対するバイアスがとにかくすごいんです。

―たしかに、「女性だからこの職が向いている」という概念自体、古いのかもしれないですね。

やまざき:事務職やケア労働とか、「女性のほうが向いているでしょ?」という固定観念がまだまだありすぎるような気がします。人それぞれ個性があるのは当たり前で、多様性をうたっているわりにはそういった社会構造がまったく変わってないんです。地方在住の生徒さんと話していると、「女は出世できない」「賃金が上がらない」といった風潮がいまだにあると聞きます。

―オンラインで学べるのもいいですね。

やまざき:はい。現在働いている仕事を辞めずに講座を受けることができるし、全国各地で勉強ができます。その代わり、覚悟を決めて勉強していきましょう!という感じです。かなり密度の濃いカリキュラムになっているので、ゆるっと勉強して習得できる、というものでもありません。本当に人生を変えたい、という人におすすめです。

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エンジニア育成は、女性やジェンダーギャップの解放だけでなく日本のデジタル力を伸ばすことも実現する

―卒業された方は、実際に賃金が上がったり、働きやすくなったなどのエピソードはありますか?

やまざき:まず、「Ms.Engineer」では卒業後のキャリアサポートまでやらせていただいていて、一定以上の成績をおさめていただければ就業保証もつけさせていただいているので、卒業後はスムーズに転職・就職されています。もともと専業主婦だった方が未経験から学んで就職して、年収480万円になったとか、地方で医療事務をやっていた方が転職して年収2倍になったという方もいます。

それによって、「初めて目標ができました」とおっしゃる方も多いです。やっぱり、どれだけ頑張って働いても賃金が上がらないのって、モチベーションが上がらないんですよね。だから思考が停止してしまって、先のビジョンを描けないまま生活していた、という方も多いんです。そうなると目標や夢を持って成長していくことよりも、現状維持が基本になってしまうんです。

―たしかに、「未来に対する不安」が一番ストレスになる気もします。

やまざき:大事なのは、「賃金が上がり続ける」というイメージができること。IT産業は成長産業といわれているので、この先もどんどん伸びていく業界です。ニーズが高いお仕事をすると、働く幸福度が上がるといわれています。賃金が上がるということは、そもそもニーズが高いということ。私はもっと女性たちが「お金がほしい」と言っていいと思っているし、お金が入ってこそ手に入れられる幸せもある。お金がすべてじゃないにせよ、選択肢が増えることではじめて“自由”といえるし、「これからお給料が増えていく」とイメージできることが、その人の人生を変えていく。そのために、「正当な方法で稼げる手段がここにはあるよ」ということを伝えていきたいです。

自分を癒してこそ、持続可能なチームになる

―やまざきさん自身は経営者としていろいろやることも多いと思いますが、休養をしっかりとれているのでしょうか。

やまざき:うちの会社は週休3日なんです。なので、週に3日は自分の時間をとれています。うちは「女性の働き方に変革を起こしたい!」ということを掲げている会社なので、子育てと仕事を両立させていくことが最も大きな命題だと思っています。ゆえに、私もシングルマザーですし、ほかの社員もプライベートと仕事を両立しながらサステナブルに働けるか、ということをたくさん考えました。そのうえで何を補償すべきかというと、衣食住に加えて「自己への再投資が必要」というところにたどり着いたんです。

―自己への再投資、とは?

やまざき:たとえば、自分を癒したり、家族の時間をとったり、自分が優先したいと思う時間をつくること。そういった隙間や余白をつくることで、持続的に働けると思っています。働きつつ、自分のための時間をつくるには週休3日くらいがちょうどいいかな、と。それがないと、どこかで行き詰まってしまうと思うんです。

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自分自身、そして社員みんなが持続的な働き方ができる仕組みに

―やまざきさんは、お休みの時間を何に費やしているんですか?

やまざき:6歳の娘と愛犬と一緒にいる時間をつくっています。のんびり散歩をしたり、先日はキャンプにいきました。そんな時間がすごく幸せです。もちろん、仕事ばかりしていたいならそうすればいいですし、要は選択権があるかどうか。私は子育ても楽しみたいし、今の仕事も大切です。

―事業において、今後の目標は?

やまざき:賃金格差を解消するために、女性のITエンジニアを増やしていくこと。そして、賃金格差は世界的な課題でもあるので、グローバルに広げていけたらと思っています。

そもそも人類がはじまってから、歴史を振り返ってもこんなにも男性と女性が同じように労働している時代なんて、ないじゃないですか。ここ50年くらいのことだと思います。もはやこの状況は異常事態! なのに、それ以前の家庭の在り方をもとにつくられた社会構造のままなんです。

―お話を聞いていると、賃金を上げる技術を持つというのはとてもシンプルな解決法のような気もします。

やまざき:そうなんです。なのに、女性活躍推進法ができて10年たちますが、賃金向上に対する実効的なルールが生まれていないんです。「管理職を増やしましょう」という話になりがちなのですが、それって男性の椅子を奪うことになりますよね。別に男性の立場を危うくさせたいわけではないので(笑)。そもそも今の時代、管理職をゴールに頑張っている人って少ないと思うんです。シンプルに、ITエンジニアは人手が足りないわけで、ニーズがある仕事に就くというのは明瞭な解決策だと考えています。

―本当に、誰も困らないですね。

やまざき:それに、男女間の賃金格差を解消して女性の賃金を上げることで、GDPは5%上がるともいわれています。計算すると、30兆円も違う。「格差解消」といった声を上げると「権利向上」といった文脈で語られてしまうことが多々あるのですが、そうではなくて、実は社会全体の経済効果があるんです。そこが見落とされがちなのが問題です。

―とてもわかりやすいですね。ありがとうございます。最後に、現代に必要な“リーダー像”とは、どんな人だと思いますか?

やまざき:う〜ん、リーダーシップってとても普遍的なもので、時代が変わっても変わらないのでは?とも思います。大事なのは、言行一致しているかどうかということと、志を持てているか、それに対して人を巻き込めるか、ということなのかなと。そこに性別は関係ない気がします。男性に勝てないのは体力だけだと思っていて。体力的に勝負しようと思ったら負けてしまうけれど、つまるところ志の高さというものが、大切な気がします。だから自分はブレずに、今の課題に向き合ってこれからも結果を出していけたら、と思っています。

―リーダーの在り方も、シンプルなのかもしれないですね。ありがとうございました!

Ms. Engineer公式サイト


「賃金格差」が問題である、というよりは「そういうものだ」と思っている人も少なくはないでしょう。

女性が子どもを産んだら働きづらい、リストラの対象になる。そんなことが当たり前になってはいけない、ということを改めて感じました。ひとつの選択として、エンジニアという職があるということを知るだけで、可能性は広がるのではないでしょうか。すべての女性が生きやすく豊かに生活できる世界になることを願っています。



取材・文/竹尾園美

やまざきひとみ (1)

「女性エンジニアになるという選択が幸福度を高める?」Ms.Engineer代表・やまざきひとみさん

2021年に、未経験から最短6カ月でエンジニアを目指せるプログラミングスクール「Ms.Engineer(ミズ・エンジニア)」を立ち上げたやまざきひとみさんにインタビュー。エンジニア=男性的な職業というイメージがありますが、「エンジニアこそ、女性が働きやすい、つまり生きやすい職業」と語るやまざきさん。なぜ、エンジニア育成が今の時代のニーズに合うのか。どんなことが実現するのか? その理由を伺ってみました。

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