Interview
Career
「経営もシェアしていく時代へ」NYで働く美容師・山本真梨子さん
東京・表参道の美容室でヘアスタイリストとして活躍したのち、NYでイチから挑戦している美容師・山本真梨子さんにインタビュー。東京のサロン激戦区で積み上げてきた「努力と忍耐」から、NYでは「自由に楽しく」へと変化。「働き方は、生き方」といいますが、それを海外で体現している山本さんの目指す、“これから”とは?
2025.01.15公開
山本真梨子/Mariko Yamamoto
1981年4月16日生まれ。兵庫県出身。NRB日本理容美容専門学校卒業。都内サロン1店舗、表参道のサロンで約20年働き、2021年2月にNYでの新しい挑戦をスタートさせた。現在は「ON-SESSION」のヘアスタイリストとして働く。
山本:東京・表参道の美容室で働いていました。当時はカリスマ美容師ブームで、青山付近でお店を構える有名な美容室でキャリアを積むことが成功者、というのがあたり前の時代。「どうしても入りたい!」と思っていた美容室があったので、履歴書を送ったのですが落ちてしまって。それでも諦めきれなくて、履歴書を20通くらいは送り続けました(笑)。それでようやく面接までこぎつけたけれどそれも落ちて。「いや、私を落としたら絶対損しますよ!」と言い続けて、3回目の面接でようやく雇ってもらいました。
山本:どうしても入りたかったので、執念ですね(笑)。そこでアシスタントとして働き、9年たってスタイリストデビュー。ゴリゴリの体育会系のところだったので大変なこともたくさんあって、私にとって暗黒時代だったんですけど(笑)、途中で諦めるのももったいないし、いつか雑誌にもバンバン出るような有名スタイリストになるまで頑張る!という思いで必死に働いていました。
山本:アシスタント時代は自分を律して、いろんなことを我慢して努力したおかげか、スタイリストデビューしてからはさまざまなチャンスにも恵まれたんです。ファッションショーや雑誌の撮影などの仕事も増えて、キャリアアップもできました。でも36歳くらいになったときにふと、「このままでいいのかな?」という思いが沸いてきて。30代半ばになってくるとそんなふうに考える人も多いと思うのですが、何をこんなに頑張ってがむしゃらに働いているのだろうか、と悶々と考えてしまうことが増えたんですよね。
とはいえ、次のステージも決まらずに辞めてしまうのも違う。それで、「自分が決めたことを3年間やり続けてみよう」と思ったんです。そしたら、おのずと答えが見つかるかも、と。そこから3年、ひたすら作品撮りをし続けてみました。そうしたらたまたまご縁あってそれをまとめた本を作ってもらえたんです。自分の作品を形として残せたことは、とても嬉しかったですね。
そのときに自分のなかでなんとなくやりきった感があって、「えいっ!」と長めの休みをとってNYへ遊びにいったんです。そしたらなんか、「日本にもういる必要ないかも」と思っちゃったんですよね。
山本:そうですね。NYのエネルギーがとても自分に合っているような感覚がありました。日本では自分のやりたいことをやりきったし、海外で新たな気持ちで挑戦したいな、と思って。それをきっかけにアーティストビザをアプライして、美容室のオーナーにも「お店を辞めます」と伝えて。すごく引き留められましたけど、「いや、私はゼロに戻りたいんです!」といって聞かなかったです(笑)。
山本:でも、大使館の最後の面接をする直前に、コロナでアメリカがロックダウンされてしまったんです。それですぐには渡米できなくて、結局日本で1年間は同じ美容室で働きました。それでも諦める気持ちになれなくて、その後面接もうまくいき、コロナの真っ只中にNYへ行くことが決まりました。ビザが降りたらすぐ行かないとならなかったのですが、正直怖かったです。コロナで騒いでいる時期だったので大丈夫だろうかと不安もありました。
―実際に来てみて、NYはどうですか?
山本:めちゃくちゃ楽しいです。ショーや撮影など、サロンワーク以外の仕事もしていますが、モデルさんの人種がみんな異なるので、髪の毛の質感も違うし毎度学ぶことがあってワクワクします。また、NYは日本と違って縦社会の人間関係があまりなくて、どれだけベテランでも、私がつくる髪型をみて、「それどうやってつくっているの?」とか、疑問に思ったことをバンバン聞いてくる。もちろん人にもよりますが、全体的にフランクな印象があります。
山本:変わりましたね。以前より自由に楽しく仕事をしている気がします。楽しているわけではないのですが、何かを犠牲にして目標に向かって頑張るというよりは、楽しいから続ける、チャレンジしているという感じです。でも、時代もあるかもしれませんね。昔は競走する時代だったけど、今はみんなでシェアしあう時代。いずれにせよ本来の私は後者のほうが合っていたのだな、と移住して感じました。
山本:やはり、言葉の壁はあります。最初のうちはとくにうまく言いたいことを伝えられなくて悔しい思いをしたことも。移住した当初は英語力がなくてコーヒーを買うことすらもたついていましたけれど、こっちへ来てから勉強しました。今でもプライベートでのコミュニケーションには困らないけれど、ショーなど緊張感がある仕事場でのフリートークはやはりまだ難しいです。
あとは、日本だと今何がイケてるかがわかりやすいんですけど、NYは多様な国の人が住んでいるので、インドのイケてる、黒人のイケてる、アジアのイケてる…など、国によってイケてるポイントが全然違うんです。だからそのあたりを汲み取りながらヘアをつくらないとならなくて、それがわりと大変です。うまいこといかなかったりすると、お客さんにいろいろ言われます(笑)。私も移住したばかりのときはそれぞれの文化を理解できてなかったので最初はへこんでいましたが、今ではだいぶ慣れたし、すべてが学びだと思うようになったのでへこまなくはなりました。
山本:独立して自分のサロンを持ちたいというよりは、スタッフ全員がCO-OWNER(共同オーナー)である働き方ができないかな、と思っています。NYの友達で、それを実現している子がいるんです。NYはすでに技術を持った人がたくさんいます。それであればみんながリーダーでその技術をシェアしあえば化学反応が起きてもっと価値のあるものがつくれるのではないか、と考えています。一人ができることって限られていて、自分が持っていないものをお互いに学び合えば、全員で向上していけると思うんです。日本と同じ働き方していても仕方ないな、という思いもあります。
山本:技術職なので、ただただ上手になりたいんです。お金が欲しい!というよりはカットがさらに上手になりたいし、新しい知識を知りたい。それだけなんですけどね。
山本:そう。ずっとチャレンジしていきたいし、楽しめることを常に探していきたいです。
山本:失敗したらしたでいい、という意識でいます。それは必ず、学びになります。NYはチャンスもたくさんあるけど、そのぶんスピードが早いので飽きられやすいんです。だから自分の好きなことをやり続けるには常にいろんなことにアンテナを張ってチャレンジしていく必要があって。来たチャンスを逃さないようにするためには、失敗はしてなんぼだと思っています。
あと私、おそらく運がいいんです。出会う人はみんないい人。嫌いと思う人は、人生で二人くらい(笑)。いつもまわりの人に助けられてもらっているので、本当に感謝しかないです。だからこそ、私が助けられることは助けていきたいとも思っています。
山本:NYはキャリア志向の人が多いので、晩婚の女性は多いですね。今、卵子凍結保存する女性が増えていますが、日本は年齢制限がありますよね。NYは、年齢制限がないんです。あとは子どもをゲイカップルや友達夫婦と育てる人もいたり、結婚も出産の仕方も多種多様。女性として生きる選択肢が得やすいかもしれません。もちろんさまざまな考え方や価値観があると思うので、良し悪しは語れませんが自分が生きやすい方法を選べるというところは魅力だと感じています。
山本:そうですね。ほかの州はもっと考え方がコンサバティブだと思います。同性婚が許されているのもNYとLAだけですし、アメリカが、というよりNYという場所が特殊だとは思います。いろんな星の人が乗る宇宙船のような感じです。
山本:「何かにとらわれなくていいんだよ!」と言いたいです。私がNYへ来たのも40歳手前でした。年齢なんて関係ないし、自分のポジションは“ココ”と決めつけず、頭で考えて諦めないでほしいなって思います。やらずに諦めるんだったら、やってみてダメだったら諦めるくらいのほうが、いいと思うんです。普段から、伝えられる人にはほそぼそと伝えています。もし固定観念などでとらわれている人がいるならば、解放させてあげたい。みんながみんな、自分が一番で中心だし、それを尊重して認め合える社会になるといいですね。
山本:しばらくはそのつもりですけれど、人生何が起こるかわからないのでどうなることやら。今はお店に来てくれる人の髪型をばっちり決めて、幸せになって帰ってもらいたい。そのために面白いことをみんなでやって、楽しく新しい発見をしていく毎日であれたらと思っています。
20代でがむしゃらに、30代で目標に向かってまっすぐ進み、40代から自分らしい生き方で働く。
年齢は関係ないといえど、経験を経てこそ見える道筋というものがあるものです。
30代最後にコンフォートゾーンを抜け出し、新しい挑戦をした山本さん。きっと、これからも常に本来の自分に対して忠実に、ワクワクを探して邁進していくのでしょう。
50代、60代とどんな生き様を見せてくれるのか、とても楽しみです。
取材・文/竹尾園美
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