Interview
Wellness
「一人ひとりが成長ではなく、“成熟”していく世界へ」食べる瞑想を通して伝えたい、本質的な豊かさとは/Zen Eating代表・Momoeさん
禅や食べる瞑想「Zen Eating」を伝えながら、国内外で活動しているZen Eating代表・Momoeさんにインタビュー。食べる瞑想「Zen Eating」とは、今日からできる、幸せな食事の方法です。そして、私たちがあらゆるものとつながっているということを気づかせてくれます。Momoeさんが、Zen Eatingを通して実現したい世界とは? そして、今後の世界で問われる、本質的なWell-beingとは。
2024.12.01公開
Zen Eating代表/Momoe
1991年生まれ。中央大学総合政策学部で鈴木大拙を中心に比較思想と禅を学んだ後、星野リゾートにてウェルネス事業に携わる。退職後、2年間のインド留学を経て、瞑想を土台にした「心がととのう幸せな食べ方(Zen Eating)」を編み出し起業。Zen Eatingのワークショップは、国内外30カ国2,600名以上に顧客を広げ、グローバル企業や国内外の大手企業、大学、国際カンファレンス等から幅広い支持を得ている。また、ウェルビーイングやマインドフルネスをテーマにした講演、研修、セミナーにも取り組んでいる他、幸福度を高める方法を実践型で提供。G20/G7に民間人として初めて「ウェルビーイング」を提案。Wellbeing Leaders Forumの代表も務める。著書に、『食べる瞑想Zen Eatingのすすめ』。今年、Forbes NEXT100選出。World Wellbeing 40 under 40受賞。
Momoe: Zen Eatingは、「何を食べるか」よりも「どう食べるか」を大切にした食事方法。絶対にこれをしなくてはならないという決まりはなく、“自分の五感に意識を向けること”を食事という日常の時間のなかで行う瞑想です。
私は、“地球とのつながりを取り戻す食べ方”だと思っています。たとえば、舌の上に食べ物を乗せてしばらく置いてみたり、目を閉じて香りや食感を感じてみると、自然と唾液が出たり、飲み込んでくれたり、胃が消化するのを感じられると思います。
そうすると、まずは毎日つきあっている自分の体の豊かさを感じます。食べ物を咀嚼して飲み込み、消化され、体内に吸収されていく。それらの働きは当たり前のようで、意識を向けてみるととても素晴らしい営みなのだと気づかされます。
そして、「この食材はどこから来たのだろう」「土から育ったんだな」「水は川から流れてきているんだな」と、私たちは循環のなかで生かされているのを思い出すことにもつながります。
Momoe:忙しい現代で生きていると、思考が主導権を握って、心と体が置いてきぼりになりがちです。その状態のまま食事をするとどうしても、目の前のもの(食事)に目を向けることなく、ながら食べにはなってしまいますよね。Zen Eatingはそんな慌ただしい日常にいったん休符を打つきっかけにしていただけたらと思っています。
Momoe:私自身がいつもバタバタと忙しなく生きていて、仙人のような暮らしをしているわけではないので(笑)、「次のMTGまで30分ある!」という感じでその短い間に食事をしたりもします。だからこそ、マインドフルネスな状態で食事することが大切。
食事の前に場をととのえて、バラバラになっていた頭・心・体を真ん中(軸)に戻して、チューニングするようなイメージです。自分の調律を「今ここ」に合わせる。そうすると、喜びに満たされたり、この世界は恵みで溢れていることに気づいたりします。
Momoe:そうですね。今はあまりにも情報が溢れすぎていて、私も「何を食べるとよいでしょうか」と聞かれることがよくあるのですが、みなさんそれぞれ、既にさまざまな情報や知識を持っていらっしゃると思うんです。なので、さらに知識を増やすのではなく、Zen Eatingはそれらの知識を引き算していくようなものだと思っています。
「私の体が叡智である」という信頼をおく。「体はすべて知っている」というマインドです。食べ物を頭で考えて選ぶのではなく、香りを嗅いだときに一番ピクっと反応するものを選んでいくとか、五感をフルに活用してチョイスしていくと良いと思っています。
Momoe:私の場合、食事の前に「五観の偈」という偈文を唱えます。時間があれば、最初の一口、二口目は食材に意識を向けて、瞑想しながらいただきます。それから食事を体全身で味わうと、食べ終わったときに空になった器をみて、「あ〜、ありがたいな」という気持ちが溢れてきます。私はこの命の循環で、命をいただいて、自分はこの循環にどう携わっていくのか。そしてどういう存在としてどう携わっていくのか、ということを思いながらゆっくりごちそうさまを言います。
Momoe:特にありません。何分、何回といったパッケージのようなものは私自身が苦手で。毎日毎食を杓子行儀にいただく必要はなく、「ゆっくり食べなければ」と気負うこともありません。「調う(ととのう)モード」に切り替えれば、自然と「丁寧に食べる」ことにつながります。この感覚を自然と身につけるためには、まずスマホの電源を切って、机の上を片付けて拭いてから食事を用意したり、まず香りを感じ、ひと口ごとに箸を置き、食事の前後に「いただきます」「ごちそうさま」と言うことから始めてはいかがでしょうか。たったそれだけで、心身ともにほぐれてきて、リラックスした状態となります。
Momoe:そう、ちょうどいい頻度じゃないですか? 1日2〜3回って。食事の時間だけでなく、飲み物でもいいんです。私もパソコン作業などをしていると、視野狭窄になってしまうタイプで、集中しすぎて呼吸が浅くなったり、肩に力が入ってしまったり、心身ともに焦りを感じてしまうほう。誰も追ってないのに追われている感じ(笑)。そういうときは、お茶を飲んだりします。お茶の香りをゆったりと嗅いで、味わう。視覚ばかり酷使しているときに嗅覚を使うと、脳へとダイレクトに働きかけ、気分を切り替えてくれるんです。
Momoe:名前をつけたのは3〜4年ほど前ですが、中学生の頃からその礎はありました。中学校の修学旅行の事前学習で京都のお寺を訪れたときに、「吾唯足知(われただたるをしる)」=「足るを知る」という禅の教えに出会いました。その言葉にハッとさせられて。それは少しで我慢しなさい、という意味ではなく、自分が手の中にすでに持っているものに目を向ければ、恵みで溢れていることに気がつく、ということ。そのときから禅に興味を持ち始めて、大学でも禅と日本文化について学んでいました。
Momoe:14歳のときに、父が突然、事故で他界したことをきっかけに、 「この命を生き切る」ことを大切にしたいなと思うようになりました。その一年後の出来事だったので、今あるものへ感謝する心というものに意識が向けられたのだと思います。
17歳のときに母がリウマチという病を治したことも大きなきっかけですね。母は病を薬に頼らず食で改善していったのですが、それと同時に同じものを食べている自分自身の体がどんどん軽くなっていったのを実感して、健康食にハマったんです。それから健康オタクになって、ヴィーガンもやりましたし、友人・知人にも「それは毒だからやめたほうがいいよ」なんて諭したりしていましたね。
Momoe:はい、かなり(笑)。ただ、相当厳しく食事制限していたので、学生時代は「外で食べるものがない!」という状態になってしまったんです。そんな生活をしているうちに、「あれ? 幸せになるために食事制限しているのになんだか楽しくないな」となってしまって。それから心も体もととのう食事とは何か、ということをずっと模索していました。
大学卒業後はウェルネス事業に携わっていましたが、「さらに学びを深めたい」と、インドへ移住。 2年ほどインド哲学やアーユルヴェーダ、瞑想を学びました。そんなふうにいろいろ経験した結果、何を食べるかと大事なくらい、どう食べるかも大事なんだな、というところに行きついたんです。
Momoe:本当にそうですね。それまでやってきた禅を統合して形にしたような感じです。
Momoe:2023年に書籍(『食べる瞑想 Zen Eatingのすすめ:世界が認めた幸せな食べ方』)を出版してから、講演や国際カンファレンスに呼んでいただくことが増えました。国内の企業で社員研修の一環で取り入れていただくときは、主にストレスマネジメントなどウェルビーイングの文脈でお話させていただくことが多いのですが、海外では日本の思想や禅のお話をさせていただくことが多いです。
私へ依頼していただくということは、競争社会の世界で何かしらの行き詰まりを感じて、個だけではなく全体性を重んじて共生していきたい、と思っていらっしゃるからだと思っています。私ができることは、ピラミッド型社会の教育を受けてきた人々の概念を書き換えることができるような体験をしていただくこと。まずは日本の精神性や哲学などをお話しながらZen Eatingを体験してもらって、知覚・体感していただきます。
Momoe:涙をする方もいらっしゃいますし、体の緊張がほぐれたり、とてもリラックスなさったりしますしてくださいます。あまりありませんが、少し批判的なお言葉をいただいたことも。「お米と一体化した気持ちで〜」のような話をしたときに、「お米と一体化するってどういうこと? 物理的にありえない」と言われたこともありましたが(笑)。物理の大学教授の方だったのですが、それはそれで、意見として興味深かったですね。
Momoe:それでいうとそもそも、私はこれまで社会制度の変容というものには興味がなかったんです。自分の命を生き切ることに全力を注いできたので、自分の人生を満たしたいという自分への矢印しかなかった。でも、今年になって尊敬するダライ・ラマ14世と謁見させていただく機会があって、そのとき彼は私の目をまっすぐ見て、「慈悲の心を持ちなさい。他者へ貢献しなさい」という言葉をくれたのです。この言葉をいただいて、私の価値観が180度変わりました。これは私にとってとても大きなシフトで、自分の生きる喜びだけではなく、社会に対しても何かできることはあるのではないだろうか?と思うようになりました。
Momoe:ありがとうございます。その出来事をきっかけに社会への貢献というワードが私のなかでプラスされました。それもあり、「G20 Well-being Leaders Forum」という国際カンファレンスを主催・企画することにもなりました(2024年11月中旬に2日に渡り開催予定)。
このカンファレンスでは世界各国のウェルビーイングを先導するリーダーたちがオンライン上で集まりディスカッションをし、多様なカルチャーから叡智を学び、声をあげていくことを目的としています。どういった社会にしたいかという質問の回答にもつながるのですが、こういったディスカッションを重ねることで一人ひとりが本質的に豊かで自由であり、いきいきとした喜びの溢れた社会を目指します。今年はオンラインですが、来年はG20が行われる南アフリカで開催していたいと考えています。
Momoe:私が大好きな禅においての心の師匠、鈴木大拙さんの言葉で、 「自由はフリーダムでもリバティでもなく、日本語でいう自由とは『自分に由る(よる)』ことだ」というのがあります。つまり、自由とは『本来の自分である』ということなんです。何かの制約があってそこから解放されることが自由というではない。そして本来の自分でいながら、その人が輝ける場所に存在することが豊かさにもつながると思っています。
Momoe:私はそう解釈しています。今年、アメリカのハーバード大学でWell-beingの講義に参加してきたのですが、その講義では「幸福の分類」を、最初に快楽的な心地よさがあり、そのあとに没頭するような情熱をともなう豊かさが生まれ、最後に目的・意義・生きがいがあるような、直線的に右肩上がりしていくような分布図で表現していたんですね。それが、少し息苦しい感じがしたんです。幸福とは何か足りないものを埋めて達成していかないと辿り着けないような感覚がしてしまって。
私はそれ(分類)を「木」で表現したいな、と思ったんです。教授にも提案させていただいたのですが、木の根っこ(土の下)に目的や意義、生きがいがあって、そこからさまざまな養分を得てぐんぐん上に伸びて、やがてそれらが枝葉になり、花や果実が咲いていく。その葉っぱや花が心地よさであったり情熱を注げる何かであったらいいな、と。
そしてその木の果実が腐ったら土に落ちて、それがやがてまた養分になるといったような循環が生まれる社会が理想だなって。そのうち木が年輪でどんどん大きくなっていくという巡りのある世界が私にとっては嬉しい。実際に、土の中で根っこは菌を通して伝達しあっているとも言われていますよね。そんな大いなるつながりのなかで生きていることがWell-beingなのではないか、と思います。
Momoe:「成長していく」という言葉より「成熟していく」という表現が個人的には好きですね。ぐるぐると同じところをまわっているようで、スパイラル上に階層は変わっているようなイメージです。
Momoe:私は、「聞くこと、尋ねること、助けてと言うこと」が大事だと思っています。そもそも私は「リーダーになりたい」と思ったことがなくて、「こういうことがやりたいけど私にはできないから、どなたか手を貸してください」と言って、助けを求めてまわっているような感じなんです。そう言っているうちにどんどんサポートしてくれる人が増えてきました。人の先頭に立って引っ張っていくような感じではなく、磁石のようなイメージです。私がそう在ることができているかはわかりませんが、尊敬する"オーセンティックリーダー"達は、そんなリーダーシップな印象です。
Momoe:はい。誰かが上で下という構図ではなく、それぞれがリーダーであり、互いが寄り添っていく社会が理想です。主催する「Well-being Leaders Forum」ではG20の各国から素晴らしいスピーカーにご参加いただけることになったのですが、それも一人ひとりお声がけしてZOOMでお話して、「今まで培ってきた叡智をぜひお話してほしい」と伝えて、みなさまに快く受けてくださいました。これもまさに、「私だけではできないから、助けてください」と声をあげたらからこそ実現できたものです。
Momoe:あとは心・体・魂が一致してエネルギーを発揮していることも大事。「〜するべき」という思考で動き始めたな、と気づいたときは一度立ち止まり、自己一致させたうえでアクションするように気をつけています。
Momoe:そういったものは正直なところ、ないんです。先々にゴールがあって、その目標を達成するといった生き方ではなく、“ひとつの生命体として”生きているだけ。なので、赴くままに、心のままに共鳴することを大事に紡いでいっているような感覚です。
Momoe:とはいえ生きているとさまざまな矛盾にもぶつかります。そもそも、「G20」とは世界経済を成長させていくためのフォーラムです。私はGDPではなくウェルビーイングこそ世界を豊かにさせると提案しているわけですから、そこに矛盾は生じているわけです。国家で分けること自体、あまり好きではありません。でも社会制度を変えるためにはそのフレームにわけないとならない部分は現状ではあって、それがとても苦しく感じることもあります。
個人の生活においても、地球温暖化に加担せずに生きる!とこだわりすぎればヒマラヤの山奥にこもることになってしまいます。もちろん、そうしたければそういった選択も素晴らしいことですが、私の人生においてそれは今のところできないわけで。
完全なるピュアを求めるのではなく、矛盾を抱えながら生きていくんだなぁ、というのは最近思ったりしています。みんながそれぞれ、そんな矛盾を許容して生きることができる社会であればいいな、と思っています。
INFOMATION
Zen Eatingでは、国内外での知見を活かし、ウェルビーイングに関する企業研修やアドバイザリーのご相談も可能。働く人が実践しやすいスキルやナレッジの提供を通して、貴社のウェルビーイング向上に。
お問い合わせはこちら:info@zen-eating.com
「私、禅オタクなんです」と自身でもおっしゃっていましたが、インタビュー中は日本語の本来の意味や解釈、思想などさまざまな叡智を教えてくれました。
印象に残ったのが、「自然」という言葉。この言葉は元来、日本では「じねん」と読み、「自ら然る」と解釈します。それは人間の作為のないそのままの在り方のことをいい、人間の自然の中に含まれる、ということ。この言葉だけでも私たちはつながりのなかで生かされているということに気づきます。
世界中の人が国籍問わず、禅の教えに心動かされている今。日本の精神性を私たち日本人が、思い出すときがきたのではないでしょうか。
取材・文/竹尾園美
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