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私らしい“ボスの在り方”とは、愛を伝え合うこと。大学生で出産、そしてアフリカで起業家になった菊池モアナさんの言語を超えた寄り添い方とは
タンザニアで起業、生理用ナプキンの工場長になった菊池モアナさんにインタビュー。若年妊娠で退学したタンザニアのシングルマザーが働ける場所を作るために、生理用品の製造・販売を行う「LUNA sanitary products」を立ち上げたモアナさん。さまざまな経験を経て、相手と寄り添うことで社員との関係性が改善されていったとか。その経緯やストーリーを伺った。
2024.11.05公開
■菊池モアナ/Moana Kikuchi
Borderless Tanzania Limited 代表取締役社長。1995年生まれ。神奈川県藤沢市出身。タンザニアMIXの6歳の男の子を育てる一児の母。日本大学国際関係学部在籍中、イギリスへ留学した後、タンザニアに渡航し子供が退学する理由を調査。大学3年時に妊娠・出産、その後3年間シングルマザーを経験する。2020年に株式会社ボーダレス・ジャパンに新卒起業家入社し、再エネ供給事業、技能実習生向け日本語教育事業の立ち上げを経験。2021年にBorderless Tanzania Limitedを設立し、若年妊娠で退学したタンザニアのシングルマザーが働ける場所を作るために生理用品の製造・販売を行う「LUNA sanitary products」を立ち上げた。
モアナさんは、新卒2年目のときにタンザニアで起業。生理用ナプキンの製造・販売を通して、若年妊娠で退学した女の子たちが働ける場所を提供し、貧困層の女の子たちに性教育と生理用ナプキンを無償配布する取り組みを行っている。
「日本は比較的、精神面での問題を抱えている人が多い気がしているのですが、タンザニアは明日、明後日すら生きていけるかわからない状況の人がたくさんいます。だからこそ、今に集中して生きているし、生命力、パッションが強い人が多いと感じています。日本人のように深く考えすぎない、というよりは考えられないくらい、生活が逼迫しているんです。いちいち細かいこと気にして考えていたら、明日死んでしまうかもしれないから。
だから、私たちだったら深く受け止めてしまってズーンと落ちてしまうような出来事も、受け流すことに慣れている感じがします。それを強さと表現していいのかはわかりませんが、生きる力はとても感じますね」
そんな強さを持ちたくましく生きながらも、さらに追い討ちをかけるような過酷な現実が起きている。それが、「若年妊娠」という問題。
タンザニアでは約3人に1人の割合で、15〜19歳の女の子たちが妊娠するという若年妊娠が問題になっている。また、貧困家庭に生まれたがゆえに、選択肢がなく夢を諦めざるを得ない子どもたちがたくさん存在している。
授かった命がみんなに祝福され、若者たちがもっと夢を持ち、チャレンジできる社会を目指し、モアナさんは奮闘中だ。
モアナさんがタンザニアへ渡ったきっかけは、大学3年生のときに受けていた授業。
「教育が戦争や紛争などの争いを解決するきっかけになる」という考えに深く共感し、同時にアフリカの子どもたちの就学率の低さとその背景を知りたいと思うようになり、タンザニアで暮らす子どもたちが退学する理由の調査するため大学を休学し、タンザニアを訪れた。
中学生の頃から、「貧困に苦しむ途上国で、困っている人の役に立ちたい」という思いがあったというモアナさん。
「昔から、正義感が強いほうでした。“困っている子がいたら助けないと!”という精神の持ち主で、いじめっ子たちと戦っちゃう子どもでした」
ただ、その正義感の強さゆえに、自身がいじめにあったことも。
「いじめがあって辛かった記憶は抹消しているので(笑)、あまり鮮明には覚えていないのですが、部活のみんなに無視されたり、陰口を叩かれたりと、とても傷つく体験だったのは確かです。でも、いま思えば自分の正義感を相手に押し付けすぎていたところがあったり、相手に対する歩み寄りの精神が足りなかったな、と思います。また、苦しんでいる渦中にいる人の気持ちも体感をもって理解できるようになったので、私にとっては学びある経験だったと思っています。この経験から、相手とのコミュニケーションを丁寧にすることや、どんなことがあっても人生を楽しむというモットーで生きています」
また、途上国に関心を持ち始めたのは学校での授業もきっかけだった。
「私はちょうど“ゆとり世代”で、先生たちが自由な内容で授業をしてくれるクラスが豊富にありました。そのなかで『平和学習』というものがあったんです。その授業はまずは自分が住んでいる地域を知り、日本を知り、そこから世界にどんな国があるかを学び、そのうえで果たして日本は幸せなのか?ということをディベートしたりする生徒主体型の授業でした。途上国を調べて、そこで自分たちなら何ができるか、どうアクションするか、ということを発表したのですが、この授業は世界のことを自分事として考えるきっかけになりました」
そんな原体験が基となり、タンザニアに渡航したモアナさんが実際に訪れて出会ったのが、アナさん(仮名)というひとりの女性。当時16歳で、「医者になりたい」という夢を持つ中学2年生。彼女は知人男性にレイプされ、双子の女の子を妊娠。絶望を感じて自殺を試みた直後だった。
「彼女との出会いが私の人生を変えました。こんな理不尽なことが実際に起きているのかということを知って、衝撃を受けました。この出会いをきっかけに若年妊娠の現状について調べていき、そのなかで女の子たちが直面している過酷な現実を知ることとなったんです。
タンザニアでは、学生が妊娠すると、強制退学となり公立学校への復学も禁止で(2017年当時)。また、宗教的にも法律的にも中絶は禁止。それに学生を妊娠させた男性は禁固30年という厳しい規則があり、身を隠して逃げてしまうのが一般的です。このような規則により中絶を選ぶこともできず、学歴も金銭支援もないままシングルマザーにならざるを得ない状況があります。
アナは幸い一命を取り留めましたが、自身の夢は絶たれ、辛い状況に立たされていることに変わりはありません。一時的にサポートはできても、彼女の人生を変えることはできない。このことに不甲斐なさを感じ、悔しい気持ちを抱えて帰国しました」
アナさんに対して心残りがありながらも帰国したモアナさんだが、その直後、人生を一変させた予想外の出来事が起きる。
インターンをしていた現地NGOで出会ったパートナー(現在の旦那さん)との間に、子どもが授かっていることがわかったのだ。
自身でも悩み、両親や友人からは猛反対されたものの、最終的に出産を選択。
「出産を決めてからは育児にかかる準備費用を貯めるために臨月までアルバイトをしたり、出産後は子育てをしながら大学に通い、友人や後輩、時には教授に息子を見てもらいながら出席して、休み時間は授乳をしてまた授業に戻り、帰宅後は息子を抱えながら卒論を書くという毎日。毎日が試練のような慌ただしい日々でしたが、そのうち自分がとても恵まれていることに気づきました」
出産後も学校に通えて、家族や友人のサポートがあり、アルバイト先があり、手当や助成金制度などさまざまな国のサポートもある。自ら出産を選択できるということ自体が、当たり前ではない、ということだ。
そんな(比較的)恵まれている日本の環境があるなかで、タンザニアで出会ったアナさんに想いを馳せるようになったモアナさん。
「何とかして、助けになりたい」
そんな想いが湧き上がり、モアナさんは貯めたアルバイト代で学費の支援を開始。学生で妊娠した子の公立学校への復学は禁止されているが、私立学校への復学は許されている。モアナさんの支援でアナさんは無事、私立学校への復学が叶った。
「アナはその後飛び級をして地元紙で取り上げられるほど勉学に励んでいる、と知人を通して聞いて、とても嬉しく喜びに包まれました。ですが、私がサポートできたのはひとりだけ。アナのように10代で妊娠している女の子たちが7万人以上も存在しているのに、私のポケットマネーだけではひとりしかサポートできないということがとても悔しく感じていました」
アナさんのように若くしてシングルマザーになった女の子たちが、必要としているものとは? そのことを知るために、大学卒業後、再びモアナさんはタンザニアに渡航。
「アナのように夢があって、学校へ再び通いたいのでは?」と想像していたものの、調査をしていると女の子たちの回答は異なるものだった。
「『もう勉強はしなくてもいいから、自分で稼いで自立したい。家族を助けたい』という声が大多数でした。現地の子どもたちに『みんなに夢は何?』と聞くと、ほとんどの子が『公務員』なんですよ。その理由は、お金が稼げるから。パン屋さんや花屋さん、とかではないんです。小さい頃からそんな現実を突きつけられているなんて、なんだか寂しいですよね。そんな声を聞いているうちに、まずは生活が経済的に安定することが優先で、その後に自分がやりたいことを見つけて、羽ばたいていってほしいという気持ちが強くなっていきました」
そこで、「仕事をつくろう!」と奮起したモアナさんが、タイミングよく出会ったのがボーダレス・ジャパンというソーシャルビジネス(社会問題の解決を目的としたビジネス)だけを行う起業家集団。
当時、ボーダレス・ジャパンでは「新卒起業家」という採用枠を設けており、新卒5人一組に対して1,000万円を支給しソーシャルビジネスを成功させ、実際に経営をすることで経営を学ばせるというプログラムを開始したところだった。
「素晴らしいプログラムで修行させていただき、一年後に現在経営している『Borderless Tanzania Limited』という会社を立ち上げることができました。その最初の事業が「LUNA sanitary products」で、若年妊娠で退学したタンザニアのシングルマザーが働ける場所を作るために生理用品の製造・販売を行っています」
生理用ナプキンの販売は、中所得〜高所得層がターゲット。
ナプキンは紙を使用。日本は徐々にオーガニックの紙ナプキンや布ナプキンが主流になってきているが、そうもいかない事情があるそうだ。
「タンザニアは停電や断水が多く、断水すると布の場合ナプキンが洗えないという生活環境による理由とともに、ナプキンを外で干すのはタブーとされているため、部屋で陰干しするかマットレスの下に隠しながら乾かしたりするんです。そうなると雑菌が繁殖しやすく、感染症などにもつながってしまいます。
また、ゴミの回収システムもととのっていないため、自宅で穴を堀り、ゴミは自身で燃やす家庭がほとんど。そういったゴミ処理問題を考えるとできるだけ早く分解される生分解性の素材のナプキンを製造するのがいいのですが、そのぶん原価が上がってしまうのと、お店に置いておくだけでも分解が進んでしまうため、リスクが高くなってしまうんです。いまはある程度の質は保ちながら、作ったものがどんどん売れていく状況が整ってから徐々に生分解性の素材にシフトしていく、ということを考えないとなりません」
ナプキンが1パッケージ売れる度に1枚のナプキンを寄付する仕組みを導入しており、ある程度寄付が貯まったタイミングで、学校を訪れナプキンを無償で配布、同時に性教育もしている。
「学校ではナプキンの使い方や捨て方などを教えながら、避妊の必要性など、性教育についてもお話しています。タンザニアでは、避妊に関する教育があまりされていません。親から伝えられている迷信を信じ込んでいる子もします。たとえば、性交渉したあとにキンキンに冷えた水を飲むと妊娠しないとか…。そういったことを大学卒業しているレベルの子でも信じていたりします。
海外の団体からコンドームが無料配布されたりもするのですが、『無料なんてあやしい』『僕たちが、子どもが作れない体にするための薬が塗られているのでは?』と疑心暗鬼になる子も多く、あとは『コンドームを使うと自分の体を弱くしてしまうのでは?』と心配している男の子もいました。避妊に関してはなぜかネガティブな印象があるみたいなので、正しい情報が伝わるように説明しています」
そもそも、これだけ若年妊娠が多いというのは、どういった社会背景があるのだろうか。
「まず手口としては、被害者となりうる人物に近づき、親しくなって信頼を得てから性的虐待を行うという、“グルーミング”が問題視されています。家庭で問題を抱えている貧困層の女の子は見るからにわかるので、たとえばバイクタクシーのお兄さんがそういった子に声をかけてバイクで送ってあげたり、生活用品を買ってあげたりするんです。そうすると困ったらあの人が助けてくれる、と思うようになり、依存関係になります。そういった関係性をつくったあと、体の関係を求めることでその子が断れない状況をつくってしまうんです」
疑問に思うのは、そういった性加害に対する法律。また、宗教的な倫理観などもどうなのだろうか。
「学生を妊娠させると懲役30年という厳しい法律もあります。ですが、村の奥の方まで逃げてしまうと警察が追ってこれなかったり、仮に捕まっても保釈金を払えば一時的に出ることができて、その間に逃げてしまうケースが多いそうです。また、警察は汚職も横行しているので、犯罪者が捕まりづらいというのが現状です。
宗教でいうとタンザニアの信仰はイスラム教とキリスト教で二分化しています。小さい頃から神様の教えを習っているのに、(悪いことをするのは)なぜだろうと不思議な部分もありますが、カルマみたいなものがありそうな気はしています。
私が感じるこの地でのカルマとは、悲しい社会的背景を背負ってきた親の世代から受け継いできている嫉妬や恨みのようなもの。こういった感情が自尊心を傷つけ、そういった行為に発展してしまうことは多少なりともあるんじゃないかな、というのが私の解釈です」
「これは貧民国がなかなかそこから抜け出せない理由にも関わっている気がします」とモアナさん。もちろん全員ではないが、人の成功を喜べずに、「あの子だけ成功してずるい!」といったジェラシーから、成功している人の足を引っ張って引きずり落とすような行動や言動をしてしまう人も多くいるとか。
現地に暮らしているからこそのリアル。実際に現地でどう感じているのか、どんな現状があるのかは、住んでいるモアナさんならではの声だと感じる。
そうなると、海外からの援助やボランティアに関しては、現地ではどう受け止めているのかも、気になるところだ。
「これも人によりますが、それをチャンスにして、未来のために動いていけるタイプの人もいます。でもそれは一握り。全体の20%くらいかな、という感覚です。
最初はありがたいという気持ちで受け取っていても、親切心にあやかって『もっとくれ〜!』という甘えや依存になってしまう人も、多いですね。『私を高みに連れてって!』と、全部委ねてしまう。私はこれを“卑しさ”と言っていますが、そういった卑しさをなくして自分で努力して一緒に上がっていこう!みたいなマインドがあれば、もっと貧困から抜け出せる人は増えると思うのですが、そこの意識を変えていく必要があると感じています」
日本では、やりたいことを仕事とする人が増えてきた。それはそれで重荷になったり、悩みの種になる人もいるかもしれないが、少なくとも選択肢があることが豊かな証拠である。
モアナさんはタンザニアに暮らして3年。働くことやお金に対する概念も変わったのではないだろうか。
「働くことと生きることが直結しているので、やりたいことを探す余裕もありません。私が経営する工場の従業員たちも、『できることがあればなんでもやります』と言って応募してきました。私は従業員たちと何度も個人面談をしていて、その子たちが何を人生に望んでいるのかをカウンセリングしながら見つけていくことをサポートできればと考えています」
「お金という概念も日本と少し違う」と語る。
「タンザニアはチップの文化があって、レストランで払うチップとは違い、エネルギーのひとつとして見ている気がします。何かをやってくれた御礼は必ずお金。日本人の場合、何かを御礼するときは菓子折りを持って行ったり、ご飯を奢ったり、おもてなしで返すことが多いですよね。むしろお金で返すのは失礼、みたいな。タンザニアでは、その出来事の熱量をお金で換算して返します。
なので、日本人が旅行に来てタンザニア人がご厚意で案内してくれたとき、日本人の方が渡すお金がすごく少なかったりするんです(笑)。私もこちらの文化に慣れているので、『え、それだけ?』とつい思ってしまうことはあります。その代わり、いいホテルに泊めてあげよう、とか、美味しい食事をご馳走しようとしてくれるのですが、タンザニアの人からしたら、その対価を自分にとって必要なことに使いたいわけです。だから、『こんないいホテル泊まるくらいなら、子どもの学費にまわしたかった』と思ってしまったり。国によって価値観は違うので、そのあたりはそれぞれ、正解はないですよね」
タンザニアはどんな場所かというと、暑すぎず寒すぎず、風が心地よく過ごしやすい場所。貧困で生活に困窮している人も多くいるが、日本でいう湘南のようなおしゃれなカフェが立ち並び、海ではサーフィンをしたり、ヨーロッパからの観光客がレジャーで遊びにくるような地域もある。街の女性は美意識が高く、ファッション好きが通うショッピングスポットもある。
「週に一回は、街へ出ておしゃれなカフェに行き、リフレッシュしています」というモアナさん。子育てをしながら会社を経営し、忙しい毎日だからこそ、現実から離れてゆっくり過ごす日は意識的にとっているという。
20代で起業して、休む間もなく働いているモアナさんだが、日本に帰りたいという気持ちは?
「時々は日本に帰って、日本の空気を吸いたいとは思います。でも、いまは事業を頑張りたいし、タンザニアでしばらくは生活する予定です。ただ、息子が昨年、一時帰国したときに通った幼稚園がとても楽しかったようで、日本に行きたいみたいです。タンザニアはわりと勉強詰め込み式の教育なので、子どもにとっては日本のほうが遊べて楽しいようです。テストも厳しく、小学校や中学校でもテストは国家試験と同じで、合格点に満たなければ留年してしまうんです。教育に関してはそういった厳しいところもあります」
しばらくタンザニアで事業を広げていくことが目標だという、モアナさんの今後の展望は?
「直近でいうと、ひとつめの工場が軌道に乗って、ちゃんと仕組みとして成功したら、それをロールモデルにして二拠点目、三拠点目、とタンザニア各地につくっていきたい。
その後は日本人などほかの起業家さんや企業と組んで、さまざまな事業をしていきたいですね。こちらは働ける機会がそもそも少ないから、自分で自分を雇う=セルフエンプロイメントをしていく人のサポートもしたいです。
やりたいことがたくさんあるので(笑)、ほかにもまだまだあって、地域の人同士が助け合い、パーマカルチャーのような循環していけるコミュニティをつくっていくために、その拠点となるカフェもつくってみたいと思っています」
目をキラキラさせながら、夢を語るモアナさん。いまの事業は最近こそうまくまわり始めたそうだが、最初はなかなかうまくいかなかったとか。
「ボスはリーダーらしく、ちゃんとしていないとならない、と思い込んでいたんです。みんなの人生を背負わないといけない、ボスははしゃいではいけない、などといういくつもの規制を自分のなかでつくってしまっていました。思えば正義をまわりに押し付けてしまっていた中学生のときの自分と同じことをしていました。そうなると従業員もあまりついてこなくて、サボってしまう子も多かったんです。
いま思えば、理想を追いかけてしまって相手に寄り添うこともできていなかったし、私自身がオープンハートでなかったのだと思います。たとえば私は歌うことや踊ることが好きで、自分を表現することが好きなんですが、最初はそういった“自分らしさ”を抑えていました。でも、自分が心をオープンにしなければ、相手も開けないですよね。そのことに気づいてからは、『自分は自分らしく存在すること』を大事にするようになったんです。そういう意識でいるようになってから、自分の言葉や考え、いわゆる信条のようなものを従業員にも伝えることができるようになっていきました」
その“信条”とは、言語化するとどんなものなのか。
「従業員に対して、愛をもって接していくこと。その子の人生を変えていけるようなきっかけをつくっていくこと。それが彼女たちに伝わっていれば、厳しい発言、行動をしても、わかってくれると思っています」
「相手に寄り添いながら、自分の気持ちを伝えていく」。
それは、学生時代にモアナさんが学んだこと。それが後々のモアナさんの経営者としての理念とリンクした。人生で起こることはすべて意味があるというが、モアナさんの波乱万丈な人生も、すべてその先の希望と光につながっていると、感じざるを得ない。
もし従業員が仕事をサボっていても、なぜそうなるのか、相手側の背景を探って物事を伝え、調和を大事にしながらのコミュニケーションを大切にしているそう。
「私は、“愛”というのは、行動だけだと伝わりきらないと思っていて。ちゃんと相手の人生に寄り添っているということが伝わるくらいコミュニケーションをとって、言葉で伝えています。『あなたはいま、こういう大変さを抱えていて、それはこういう要因からきて、でもこういう人生にしたいんだよね?』というふうに、相手の言葉から背景を汲み取って、対話をしていくように心がけています」
言葉はすべてスワヒリ語。
違う言語で話すことで伝わりづらいことがあっても、あえてすべてスワヒリ語で伝える。
同じ言語だからこそ、伝わることはある。
「大丈夫かな、と思ったら『ちゃんと伝わってる?』と聞くようにしています(笑)。どれだけ拙くなってしまっても、相手に伝わるように。それも愛のひとつかな、と思っています」
現地で暮らしていると見えてくるもの。それは、歴史的・社会的背景による複雑に絡み合った社会の成り立ち、そしてその奥深くに潜む精神性まで、ひとつの言葉では語り尽くせないさまざまな理由がある。
文化や価値観こそ違えど、そこを紐解いていくことで、わかることもある。それは、同じ人間だからこそ。
いずれにせよ、どこにいても大切なのは「今を生きること」。モアナさんの輝く笑顔から伝わるメッセージは、シナプスのように全世界へ届いていく。そんな力強さを感じた。
取材・文/竹尾園美
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