Culture
「私のバイブル」vol.4/フォトグラファー・前田直子さん
自身が持つ才能を活かし、クリエイティブな生き方をしている素敵な人に、ミューズたちの指針や道標となり、My Museの在り方を体現するような映画や本、アートをご推薦いただく「私のバイブル」。
2024.10.15公開
© 2000 BLOCK 2 PICTURES INC. © 2019 JET TONE CONTENTS INC.ALL RIGHTS RESERVED
第四回には、フォトグラファーとして活動する前田直子さんにご登場いただきます。社会人を経験した後、単身アメリカにわたって写真を学び、現在はニューヨークで活躍する前田さんの感性を刺激した作品とは? ティーンネイジャーのころから、映画などの画を観ることが最大の娯楽だったという前田さんに、好きなシーンを焼き増しさせた3つの作品をご紹介します。
「本や雑誌でも文字ばかりのものがあまり得意でなく、田舎で育った私にとってのエンタテインメントといえば、映像で楽しめる映画でした。高校生のころから漁るように見始めて、最初はハリウッド大作から入ったけれど、新作や直近のものを一通り全部見てしまったら、過去をさかのぼるしかなくて、クラシックな作品もたくさんみました。
大学ではフランス語を専攻していたので、フレンチやヨーロッパの作品もみて、それは論文を書くのに大変役立ちましたが、どの国のものでもCGがない時代に造られた作品の、世界観の描き方には感嘆します。
いまは編集も特殊な画像作りもテクノロジーでカバーできてしまうけれど、それらがない時代にあるのは、想像力とそれを表現するクリエイティビティのみ。この世に存在していないものを描くのに、リアリスティックに見せなければならない。観客に想像させなければならない。
そんな想像を生み出す天才的な見せ方をするのが、ウォン・カーウァイ監督だと思います。1990から2000年代前半の作品はどれもすばらしく、日本でもおしゃれムービーとして流行してミーハー心で観たけれど、特に『花様年華』が秀逸ですね。
写真を撮るときに私たちがしているのは、被写体にピントを合わせること。でも、本当に魅せたいもののために、“どこにピントを合わせるか”が各自のセンスが問われるところです。でも、その何かやどこかをはっきり見せないことで奥行きがうまれたり、まったくピントが合ってないプロップがあることで、その世界を想像させたり、“もっと見たい、知りたい”と思わせることができると思うんです。監督は、本当にそれが巧い。本作品でも“主演女優にはまったくライトが当たってなくて、薄暗い廊下が画角の中心”とか、“会話をしている登場人物は画角のいちばん端っこにいるシーン”とかが随所に出てきます。けれど、だからこそ、女優のドレスの色彩がいちばん印象に残ったり、登場人物たちの距離感を描いていたり、その空間の隙間や湿度すら感じさせる。文字ではできない表現方法として“こんなんがあるんや!”と感銘を受けました」
「画角に特徴があるといえば、小津安二郎監督の作品もですね。その中でも、『お早よう』は、個人的に子どものころを思い起こさせます。昔の作品で、自分も子どもだったから、というタイムラインのことだけでなく、画角や目線が子どもの視点で構成されているんです。子どものころは、世界が下から上に広がっていた。和室から玄関を覗くときの角度や、床に転がってみている情景などを見ていると、自分が子どものころに、冷蔵庫の横に寝っ転がりながらみた、ある日を思い出します。日常の光景がたっぷり詰まっていて、隣のおばちゃんが急に訪ねてくるシーンが、特に好きです。
映画なので映像の連続なわけですが、子どもたちや俳優の顔の筋肉の動きを含めて、どのシーンで一時停止して切り取っても、完成された油絵や絵ハガキのようで完璧なんですよね。非の打ち所がない。
画角によって、感情を湧き起こすことができるならば、突っ立っているだけではよい写真は撮れないな、と感化されましたし、インテリアやブツ(物)を撮るときには、下から上に向かってレンズを向けるような、この小津方式を採用させていただいています」
「映画であってもどのセレブが出演していたとか、ストーリーラインすら忘れてしまうこともしばしばですが、絵の印象で物語や情報を得て内容を楽しんでいるようなところがあって、画角や画像の美しさ、そこから自分が見受けた感情だけは忘れないですね。世界観や画がキレイすぎて、不気味な印象や強烈なインパクトを残すキューブリック監督作品が、私にとってはまさにそう。衣装や美術などのパーフェクトさが、逆に不安の感情を煽るような『2001年宇宙の旅』も捨てがたいのですが、やはり『シャイニング』でしょうか。三輪車と双子が登場するシーンは忘れられず、大好きです。
三輪車、双子の女の子の洋服、建物や壁紙などのインテリアも、とてもキュートなかわいらしさがあるのに、なんであんなに怖いのでしょう。ジャック・ニコルソンやその他の俳優の鬼気迫る演技もあると思うのですが、人は映画をみている最中に、その映画のジャンルを考えたりはしないと考えると、色彩や画角で、ホラーを表現しているのだと思うんです。シアンが効いているのと、可愛かったりキレイだったりするもののなかで、コロラドの風景や滝などの景色が目に飛び込んできて、予想外の画角がもたらす衝撃が甚だしい。ああいった表現やアイデアは、映像ならでは。さまざまな点から、世界中の多くの人をインスパイアしていると思いますが、“画を通して何をみせようとしているのか”を伝えるストーリーテリングには、撮影現場に入った瞬間の勘と脳の引き出しを駆使して写真を撮るという経験を与えられました」
1962年の香港。編集者のチャウ(トニー・レオン)と秘書のチャン(マギー・チャン)は、同じ日同じアパートに入居して隣人となる。互いの伴侶の裏切りに気づいた2人は同じ傷を抱えた者同士、ともに時間を過ごすようになる。やるせない恋を切なく描いたウォン・カーウァイ監督作品。2000年カンヌ国際映画祭で高等技術賞を受賞。
1959年に公開。東京郊外の新興住宅地を舞台に、妙な遊びを流行らせたり、テレビをねだったりする子どもたちと近所付き合いにふり回される大人たちを、小津安二郎監督がコメディタッチの軽やかな演出で魅せる。小津の遊び心が色鮮やかに落とし込まれ、戦後の庶民生活を活き活きと写し取った、監督にとって2本目のカラー作品。
1980年公開、スタンリー・キューブリック監督・製作によるサイコロジカルホラー映画。コロラド州の人里離れたホテルに職を求めたジャックと特殊能力を持った息子たち家族は住みこみ始めるが、「存在しないはずの何か」の恐怖に襲われ、精神が蝕られていく。最も偉大で影響力のある作品として、近代ホラー映画史に名を刻む。
取材・文/八木橋恵
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