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Interview

Career

「香りがもたらしてくれる、幸せの循環」フレグランスデザイナー・Harunaさん

#新しい時代のウーマンズリーダー

香りをツールに、世界平和を。今回お話を伺ったのは、フレグランスデザイナーのHarunaさん。パーソナルセッションから日本の地域、海外支援まで、幅広く活動しているHarunaさんが、香りを通じて届けたい想いとは?#新しい時代のウーマンズリーダー

2024.10.05公開

PROFILE

■Haruna

株式会社Selenophile(セレノファイル)代表取締役 /フレグランスデザイナー。『わたしだけが知っているわたしの望む香り』をテーマに、オーガニック・野生種の精油・天然香料を使用して香りをデザインしている。パーソナルな香りの診断やコスメの香り監修、企業、イベント、ホテル、東京オリンピック2020の等の空間演出など幅広く活動中。

@haruna.sema

忙殺されていた毎日を、香りが救ってくれた

―フレグランスデザイナーとして活躍されているHarunaさんですが、香りを扱う仕事を始めたきっかけはなんですか?

Haruna:自分自身が、香りに助けられた経験があったんです。

2017年に独立したのですが、それまで10年程会社員をしていました。数度の転職を繰り返しながら、勤めていたのは広告代理店やメーカー、商社などで、だいぶハードワークな職場でした。やりがいこそ感じてもいましたが、あまりの激務で心身ともに酷使していたと思います。

休み返上で仕事したり、徹夜で仕事をすることも多く、椅子を並べて会社で寝たり、シャワーを浴びるためだけに早朝家に帰ったりと、ベッドで眠ることすらままならない生活。会社のデスクにはエナジードリンクの空き缶が並んでいるような毎日でした。時代もあったのかもしれません。若かったのでなんとか乗り越えていましたが、年齢を重ねてもそんな働き方を続けるのは想像できないような状況でした。

そんなときに少しでも自分を癒そうと、アロマをティッシュに垂らしてデスクに置いたりしていたんです。その香りにだいぶ救われて、なんとか持ちこたえていた感覚はあります。日々の呼吸を通じて、香りは無意識に心と身体に力を与える存在であり、手軽に人を癒せるツールだと実感しました。

―香りは、五感のなかでも脳に伝達しやすいと聞いたことがあります。

Haruna:そうなんです。香りを嗅いで、脳の神経に届くのはわずか0.2秒程と言われています。そのほかの五感器官、たとえば「熱い」「痛い」などの感覚は約1秒かかると言われています。また、唯一脳にダイレクトに伝わるのが嗅覚とも言われています。そういったメカニズムにより、セルフケアをしやすいんです。

―バリバリと働くキャリアウーマンから、まったく異なる畑に飛び込んだと思うのですが、迷いはなかったのですか?

Haruna:最初はありました。当時は働くのであれば「正社員であるべき」といった固定観念があり、いわゆる大企業に勤めることができているのに、「なんのアテもなく辞めるだなんてどうかしている!」という概念が周囲にも漂っていました。いまでこそ就職しない、フリーランスで生きる、といった選択をする人も増えていますが、そのときはデザイナー、イラストレーター、ライターなどのクリエイター職でない限りは就職するのが当たり前、という時代。辞めて香りの勉強をしたいと言い出したときは、「ついにHarunaが病んだ」と同僚には言われたりもしました。そういったこともあって迷いはありましたが、簡単にいうと最終的に覚悟を決めたんです。

―覚悟を決めた?

Haruna:目標に向かうためのプロセスであれば、なんでもいいじゃないか、と。生きていればそれだけでいい。幸いにも、日本にはたくさんの仕事があります。どうにかはなるじゃん、と覚悟を決めたら、迷いは吹き飛びました。

―そこからどうやって活動を広げていったのですか?

Haruna:本当にありがたいことなのですが、すべて人のご縁でつながっていきました。私はパーソナルアロマブレンドのほかイベントや企業、ホテルなどの空間演出のためのフレグランスデザインなど、香りをいろんな掛け算で提案しているのですが、当時はそういった多角的なやり方をしている人があまりいなかったような気がするので、「一緒に何かできないか」みたいな形で、少しずつお声がけいただけることが増えていきました。

それは、会社員時代に培ったことがとても役に立っていて、相手に目に見えない香りの力について、ロジカルに伝えたり、さまざまなアプローチを提案するといったことがスペックとして備わってくれたのだと思います。人生、無駄なことはひとつもないし、当時、しんどい事や、これ私の仕事か?と思うことが、今になって役に立つことがあったりするので、がむしゃらに働いておいてよかった!といまは思っています。

―すべては必然ですね。東京オリンピック2020ではフレグランスで空間演出もしていますよね。

Haruna:これもご縁で声をかけていただいて。オリンピックもやる・やらないで直前まで協議していたのでなかなか大変でしたが(笑)、一生に一度しかない経験だろう、と思ってやらせていただきました。VIPを迎える空間の香りを依頼されたのですが、日本的な香りや、コロナ禍ということもあり、衛生面も考慮した香りを提案させていただきました。

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Photo by Haruna
“わたしだけが知っている私の望む香り”をテーマに、オーガニック・野生種の精油や香料を使用して、ひとりひとりに寄り添った香りのデザインをしている

―なかなかない経験ですよね。幅広くお仕事されていると思いますが、活動するうえで、Harunaさんのなかで指針にしていることはありますか?

Haruna:自分の直感を大切にしています。まずは、心がワクワクするか?を自分に問います。そして、(その仕事に)関わる人が幸せになるかどうか、も重要。チームで仕事をすることが多いですが、その中で誰か一人がピラミッドの上に立つのではなく、皆がリスペクトを持って楽しんで向き合うことができるか、を大切にしています。

使用する香りは合成のものは使わないようにしていて、オーガニック、野生種の精油、天然香料を使うようにしています。合成のものがダメ、ということではないのですが、植物性のアロマは植物そのものの生命力があふれているので、やはりとてもパワフル。その自然界の植物の恩恵を受けることで、自分たちも幸せに生きていく、ということをコンセプトにしています。

ー植物性のアロマは種類がたくさんありますが、どんなふうに選ぶとよいですか?

Haruna:「ラベンダーはリラックスしたいときに良い」などロジック的に説明もできるんですけど、一番大切なのは、自分が心地よく、好きと思う香りを見つけることだと思っています。いくら「ラベンダーがリラックスできる」と言われても、ラベンダーの香りが好きでなかったら嗅ぐのもイヤじゃないですか。私の考えとしては、「自分はこの香りが癒されるな」という感覚的な選び方でいいと思っています。
天候やそのときの気分、状態によっても感じ方は異なりますし、女性はとくに生理前後で心身ともに状態が変わりやすい。その日の気分やお天気でファッションやメイクを楽しむように、、そのときの自分がどういった香りが心地いいのか、感じながら選んでもらえたら、と思っています。そういう意味で、心のケアにもつながるので、香りを通じて自分と対話していくきっかけにしていただきたいです。

―さまざまな活動をされていて忙しくされていると思いますが、ご自身はどうやっていい状態を保たれているんですか?

Haruna:日常的に瞑想やヨガをしたり、あとは自然に触れたり、お散歩したり。東京は人がたくさんいる分、情報がキャッチできるし、仕事をしているうえでは拠点にしていたい場所。だからこそ、意識して自然を感じ、心と身体の力を抜く時間を大切にしています。

あと、ちゃんと日々に余白をつくるようにしています。予定を詰め詰めにはせず、お休みも意識して取っています。朝起きてから瞑想をしていると、今日の自分の気分や状態がわかるので、ちょっと疲れているな、と思ったら休むようにしたり。

というのも、香りのサンプルをつくるにあたって、自分の状態が如実に出てしまうんです。自分自身がと整っていることが仕事のパフォーマンスにもつながるので、無理はしないが鉄則です。

―たしかに、他人を癒そうとして自分が疲れていたら、本末転倒ですね。エナジードリンク飲んでもいっとき元気になるけれど、持続性がない。

Haruna:手軽に癒されるアイテムとして、香りは誰でも活用できるツール。その魅力を伝えられるようにイベントや企業、メディアなどでお話するのも、活動のひとつです。

香りがつなぐ、人と人。そして世界平和

―本インタビューでは、「新しい時代のウーマンズリーダー」というテーマなのですが、Harunaさんが目指している社会、そして目標を教えてください。

Haruna:私の人生において最終的な目標は、「世界平和」なんです。

―とても壮大なテーマですね! そう思うようになったきっかけは?

Haruna:20歳のときに北インドへ2週間バックパックで旅をしたのですが、まずマザー・テレサのボランティア施設でお手伝いをしたんです。そのとき、価値観がガラッと変わって。大学へ通えていること、就職活動ができること、未来に対して選択できる状況がいかに恵まれているかということに気づけました。

そのあと北インド内をいろいろとまわったのですが、当時のインドはまだまだ未発展のところがたくさんあって、すべてが衝撃的でした。毎日のように停電があったり、蛇口をひねっても透明な水が出ないし、お湯も出ない。スラム街の子どもたちや物乞いをする子どもたちもたくさんいて……。女性の立場がまだまだ弱かったりと、さまざまな社会の問題を目の当たりにしました。この経験から地球上に住むみんなが幸せに笑顔で過ごせるようになればいいな、と思うようになって、「世界平和」が目標になりました。

―香りがその一助になる、と。

Haruna:そうですね。まず香りそのものがその人の幸せや豊かさにつながるということと、香りというツールを使って地域や社会に貢献する、というふたつのアプローチがあると考えています。

前者でいうと、とくに都心で暮らし忙しく過ごす方々が、香りによって呼吸が深まったり、身体を緩めてリラックスする時間をとったり、自分をニュートラルな状態に持っていったりと、自分のための時間をつくるきっかけにしてもらいたい。4年ほど前から瞑想とヨガも学んでいて、コーチの認定資格も取ったのですが、瞑想と香りの掛け合わせができたらいいな、と思っています。

―瞑想やヨガとの組み合わせは、とてもよさそうですね。瞑想やヨガを始めて、何か変わりましたか?

Haruna:変わりましたね。落ち込んだりしても、自分の真ん中(軸)に戻ってくるのが早くなりました。起きた事象を俯瞰で見られるようになったというか。その渦中にいる感情に引きずられづらくなりました。瞑想もヨガも、香りも、重要なのは「呼吸」。呼吸を深めることは、心身の健康にとってとても大切ですが、何かに夢中になったり、仕事に集中しているとつい呼吸は浅くなりがちです。

たとえばアロマスプレーをシュッとひと吹きして、スイッチを切り替えてから瞑想をすることでより深い瞑想状態へと導いてくれます。そうすると、自然に呼吸も深まります。

時間があれば旅行をしたり、自然に触れながらリフレッシュができますが、自分の時間を持ちたくても持てないくらい忙しなく生きている人は、なかなか難しいですよね。そういう人たちは、瞑想や香りを使って、日常のなかで自分と向き合う時間を作れるということをお伝えしていきたいと思っています。

私は、どんなことが起きても、その原因も答えも、自分の内側にあると思っています。傷つくことも、喜びも、怒りも、自分自身に問わないと根本的な原因はわからない。自分と対話していくことで、見える景色があると思っていて、それを知っているからこそ自分を律することができたり、ゆるめたりもできる。そのツールに香りや瞑想などを活用してほしいです。

―一人ひとりがそういった時間を大切にすることで、やさしい世界が広がりそうですね。地域や社会貢献は具体的にどんな活動を考えていますか?

Haruna:コロナ禍で海外へ行けない時期、国内でさまざまな農園に行かせていただきました。そこで改めて、日本にも地域によっていろんなハーブがあり、海外にはないような植物も豊富にあるということを再認識しました。それをきっかけに、地域とのお仕事もご縁があれば積極的にやらせていただいています。植物とワインと地産地消の食事でペアリングしたり、地域の香りと伝統工芸を掛け合わせたイベントをやらせていただいたり。

また、同じハーブでも地域によって香りが違ったりします。たとえば、北海道のラベンダーと伊豆のラベンダーの香りを嗅ぐと、まったく違うんです。ワインも産地によって変わりますよね。もっというと年度によっても違います。どれがいい・悪いではなく、その土地によってエネルギーも違うから、植物のエネルギーも変わってくる。

その香りの違いを楽しんでもらうようなワークショップをリトリートやイベントで組み込んだりしながら、地域とのつながりのなかで香りを楽しんでもらうような、循環を生んでいきたいです。

―ボジョレー・ヌーボーのような。

Haruna:そうですね。ワインの違いを楽しむように、香りの違いを楽しんでいただけたら!

―最近では、海外での活動もされていますよね。

Haruna:今後は海外での仕事も積極的にしていきたいと考えています。

昨年は、JICA(国際協力機構)のお仕事で中南米にあるドミニカ共和国へ視察に行ってきました。ドミニカ共和国は発展途上国と言われていて、これまで日本からの支援は道路整備や病院や学校の建設など、技術面や物質面での取り組みが主でしたが、これからの時代は新しい形での提案をしていこうということで、“ARTIST in Project”というアーティスト×国際協力のプロジェクトがスタートしたところでお声がけしていただきました。


↑JICA事業の視察で訪れたドミニカ共和国にて

―ドミニカ共和国といえば、カリブ海に浮かぶリゾート地、というイメージでした。

Haruna:そういった場所もありますし、経済成長格差はあり、依然として農村部の貧困問題を抱えているようです。一カ月間、視察で訪れていたのですが、ドミニカ共和国の方はすごくニオイに敏感なんですよ。自分のニオイも意識しているから、1日3回もシャワーを浴びるらしいんです。ドラッグストアに行くとデオドラントコーナーの品揃えがすごい。とくに富裕層の方はオーガニックナチュラル系のコスメやアロマにもすごく興味がある。なのに、国内に精油を蒸溜する工場がひとつもなくて、すべてアメリカなど国外から輸入しているんです。

ー素材が自国にあるのにもったいない!

Haruna:そうなんです。農園にもいくつか訪れたのですが、香りの材料となるさまざまな植物がわんさか育っていて、まさに香りの宝庫でした。仕組みやハウツーさえわかれば、国内の素材でさまざまなプロダクトが作れるし、ワークショップや観光ビジネスなど、企画に合わせていろんな展開も考えられます。マーケットは十分にあるな、と感じました。そこで、日本から蒸留機を輸出して工場をつくろう、というプランをいま進めています。

―眠っている植物の恩恵がたくさんあったのですね。

Haruna:本当にそう。うれしかったのは、視察中スタッフでさまざまな香りをかいだとき、みんなの顔がパッと明るくなったんです。各々の母国語で、「いい香り〜」といったニュアンスを言ってくれているのはわかりました。香りは国籍や言語、性別、年齢を超えて、心を通い合わせられるツールだということを再認識できました。(植物は)当たり前のようにそばにいてくれるけど、そもそも地球があってこその植物で、植物があってこその人間、なんですよね。その恩恵にあずかれることを感謝しながら、すべてと共存していくことの大切さを、日々感じています。

―あらゆる方面で、香りが与える力を感じることができました。

Haruna:ありがとうございます。私が関わった仕事を通じて、香りを知ってくれた人たちがセルフケアをできるようになって、自分で自分を幸せにする力をどんどん蓄えていってほしいな、と心から願っています。



嗅覚というものは、私たちが生きるうえでとても、重要な役割を担っています。ときには私たちに生きる活力を与えてくれて、自分の内側と奥深くコンタクトをとるときにも役立ちます。そんなふうに忙しい毎日に、人が人であるということを感じさせてくれる、とても身近でありがたい存在。それが香りです。

その香りをさまざまな形で届けてくれるHarunaさんの活動は、きっと世界平和にもつながっていくでしょう。あなたの人生がもっと豊かになる、その一助に、香りを活用してみませんか?



取材・文/竹尾園美

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