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「“真の美しさ”と本物の価値を追い求めて、辿り着いたエチオピア」 エチオピア在住 鮫島弘子さん/andu amet代表

#海外で挑戦する女性 #海外で自分らしく暮らす

海外で挑戦する女性たち」にフィーチャーする連載インタビュー。第4回目は、エチオピア在住・andu amet(アンドゥアメット)代表の鮫島弘子さんにお話を伺った。

2024.07.18公開

Hiroko Samejima

東京都出身。株式会社andu amet(アンドゥアメット)の代表取締役兼チーフデザイナー。エチオピア在住歴12年。美術学校を卒業後、化粧品メーカーにデザイナーとして勤務 。3年後に退職。JICA海外協力隊に応募してエチオピア、続いてガーナへ赴任。帰国後、外資系ラグジュアリーブランドに入社し5年間マーケティングを経験。2012年2月、世界最高峰の羊皮エチオピアンシープスキンを贅沢に使用したエシカル×リュクスなレザー製品の企画・製造・販売を行う株式会社andu ametを設立。2012年、日経ウーマンオブザイヤーキャリアクリエイト部門賞、2013年APEC若手女性イノベーター賞等、多数受賞。近年は新しいタイプの若手起業家として注目を集め、カンブリア宮殿をはじめとするテレビやラジオ番組、大手新聞、ネットなどで取り上げられ、講演・イベントの登壇も増えている。

@hiroko_anduamet


アフリカと聞いて、どんなイメージを浮かべるだろうか。

「貧しい・戦争が多い・女性や児童の虐待」

そんな悲劇的な問題を抱えている地域を想像するかもしれない。それはある意味では真実であり、実際にいまだそのような問題が根強く残っているのも否めない。

本インタビューでも、“その類(たぐい)”の質問を投げかけた。そんな問いに対して鮫島さんは、「アフリカをそんなひとつのイメージで括ってしまうのは、違うのではないか」と一方的な解釈に疑問を呈した。

その言葉に、はっとさせられる。

この取材自体ももちろん、情報のひとつ。しかしながら現地で10年以上も暮らし、リアルな体験をしてきた鮫島さんの言葉だからこそ、見えてくる真実はきっとあるはず。

実際のところ、アフリカは「ラストフロンティア」といわれている最後の巨大経済市場。他国に比べても急激な経済成長を遂げている。エチオピアも同様で、とくに首都では女性の社会進出が目覚ましいと話題だ(地域によって格差はある)。

鮫島さんはそんなエチオピアでブランドを立ち上げ、唯一無二の美しさを追究し、ものづくりに取り組んでいる。なぜ、エチオピアだったのか。まずはその経緯から聞いてみた。

違和感を覚えていた、大量生産・大量消費の世界

鮫島さんがエチオピアへ初めて訪れたのは、海外協力隊のボランティアとして赴任した2002年4月のことだった。それまで鮫島さんは化粧品会社の商品開発及びデザインの仕事に就いていた。

短期間で変わりゆく流行。それに合わせたデザイン。そんなふうに“美しい”がすり替わっていく大量消費の流れに、働きながらずっとモヤモヤが消えなかったそう。

「あっという間に人気が出る商品は飽きられるのもあっという間。化粧品業界でも季節ごとに新製品が作られていました。どんなに美しいものでも流行が過ぎれば処分されてしまう。それは、生まれたてはキラキラしていてもすぐに捨てられてしまう“きれいなゴミ”なんです。『そんな“きれいなゴミ”を一生作り続けていくのだろうか。私のやりたいこととは、本当にこれなんだろうか』と、ずっと自分に問い続けていました」

疑問を抱きながらも正解が見つからないまま悶々とする日々。

そして、転機が訪れたのは入社3年目のこと。海外協力隊の仕事にデザイン系の職種があることを知り、応募をした。そして、見事合格。赴任先はエチオピアとなり、初めてアフリカへ渡ることとなった。


実際にエチオピアに渡り、鮫島さんが目にしたのは、「援助慣れ」してしまっている人々の姿。デザイン隊として派遣されたものの、そのような業務は用意されておらず、現場で求められたのはPCなどの機材や金銭。「本当に必要な支援ってなんなのだろうか」と想定外の問題に直面した。とまどいながらも、とにかく現場に足を運び、自分に何ができるかしたいのかを問い続け、ようやくたどりついたアイディアが「現地でファッションショーを開催すること」だった。


「エチオピアの女性たちはとてもファッショナブルで、おしゃれでした。そして腕のいい職人たちもたくさんいます。友人と一緒にエチオピアの素材や技法を活かすデザインを考え、エチオピアの職人たちによって作られたドレスや靴を発表するファッションショーを企画しました。職人たちが情熱を込めて一生懸命取り組んでくれたこともあり、ショーは大いに盛り上がり、日本大使館からも『日本とエチオピアの友好史上に残る偉大なイベント』と表彰されました。ショーのあと、展示販売会も行ったのですが、たくさんの方が買ってくれたんです。その製品は、世界中どこにもない、エチオピアのためだけにデザインされたオンリーワン。そのことに価値を感じてくれたこと、そして何より参加したみんながこのことを誇りに思ってくれたことがうれしかった。(製品を)手に入れた人も、作った人もハッピーになるということを実感できた瞬間でした。この出来事で、自分のやるべきことへの何かしらのヒント、光が見えた気がしました」


エチオピアから帰国後、鮫島さんはJICAから短期ボランディアの要請を受け、ガーナへ赴任。再びアフリカへ渡る。ガーナでは職業訓練校で、10代の若者たちにデザインや手工芸の製作指導をすることに。「といっても、はじめから生徒たちのやる気があったわけではないんです」と鮫島さんは話す。遅刻したり無断欠席する人がいたり、出席してもとくに居眠りをしたりおしゃべりをしたり。そこで鮫島さんは事業で生徒たちが作った刺繍アートやビーズジュエリーを近所のカフェやJICAオフィスに置いてもらうことにした。



「そこでは展示するだけではなく、販売もしてもらったんです。そうすると、やっぱりなかでもできのいいものから売れていくんですよね。そして、その売上金はすべて作った本人に渡しました。となると、生徒のなかでも売れる子と売れない子と大きな差がつくわけです。それを見て生徒たちが目の色を変えて授業に出るようになったんです。授業後も、『ティーチャー! これはどうするの?』と質問攻めにあうくらい(笑)。ビジネスが絡んできてみんなすごく変わった。『ビジネスってこんなにパワーがあるんだ!』と実感できました。それに私自身もとても楽しかったんです。エチオピアとガーナでの経験を経て、本当にいいものを時間かけて作ることの素晴らしさ、そして作り手が自立することで誇りを持てて、成長していく喜び。作られたものはどこにでもある流行りものではなく、そこにしかない唯一無二の美しさを放つものであること。その背景も含めて、お客様もそれを手に取ることを誇りに思うということ。そんなすべてのストーリーを届けることをしたいと、心の底から思うようになりました」

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エチオピアの大自然

「かわいそう」という思いで手に取ってほしくない

たしかなヒントを得て帰国した鮫島さんは、ビジネスのノウハウを学ぶために外資系のラグジュアリーブランドに入社。5年に渡り、マーケティングに携わる仕事を経験した。「デザインやコピーなどクリエイティブな作業は得意でしたが、数字は苦手だったんです。交通費の計算も面倒くさいから経費精算もせず自腹で払ってしまったり。それまで億を超える数字を扱ったことなんてなかったので、会議中に咄嗟に予算を聞かれて、『いち、じゅう、ひゃく、せん…』と桁数を数えたことも。その場の空気が凍ってましたね。『この人大丈夫かな』と、みんな思っていたんじゃないかな(笑)。しょっちゅう間違いもやらかして当時のチームのみんなには多大な迷惑かけてしまったのですが、ここでビジネスの“いろは”をたくさん学ばせてもらったと思っています。それに、やはり世界のトップブランドで働いたことは非常にいい経験でした。それまで高い値段で商品が売れるのは、そのロゴに価値があるからだと思っていました。でも、実際はそのロゴに見合う作品や世界観を提供するために世界中から才能を集め、膨大な時間やお金をかけていること、変わらないために常に変革を続けていることなどを知ることができました。とても面白かったです」


そして、2010年に退社。いよいよ起業への道が始まる。しかし鮫島さんが求めるクオリティの高いプロダクトが完成するまでの道のりは、そう簡単ではなかった。「まず、資金繰りが大変でした。日本とエチオピアの往復だけでもあっという間にお金がなくなります。かといって品質に妥協はしたくない。自分が納得いくものができるまで試行錯誤を重ねました。さらに人を雇えるほどの資金はないので、予算管理や交渉など苦手なこともふくめて初めはすべて自分でやらなければならなかった。ただ、だんだんボランティアで手伝ってくれる人が集まってきて、トライ&エラーを繰り返しながらなんとか形になってきました。当初は2011年に起業をする予定だったのですが東日本大震災が起きたこともあり、結局2012年に株式会社にしました」


名付けたブランド名は、「andu amet(アンドゥアメット)」。この名前にどんな想いが込められているのだろうか。「エチオピアの言葉で、直訳すると『ひととせ=1年』という意味です。『ときの積み重ねを共に大切にしていく』という想いを込めています。エチオピアの首都アジスアベバは標高が2400mと高く、朝晩の寒暖差が育てる良質なシープスキン(羊の革)は、現地の特産品にもなっています。しっとりやわらかな手触りと丈夫で伸縮性が高いのが魅力です。『andu amet』ではこのシープスキンを使ったバッグや財布、カード入れなどをデザインから縫製、販売まで一貫して手がけるレザーファッションブランド。化学繊維の場合、どんなに美しいものでも完成した瞬間から劣化していくだけですが、本革というのは、時が経てば経つほど美しくなっていきます。お客様に長く、大切に使ってもらいたいから。そんな革の良さを十分に引き出したプロダクト作りを心がけています。そして、デザイン面ではアフリカの大自然や日本の伝統工芸の魅力を融合させたオンリーワンの美しさを追求しています。

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エチオピアで育まれた羊たちの革を贅沢に使った「andu amet」プロダクト


ブランドのコンセプトは『真の美しさと豊かさをすべての人に』。これは物心ついた頃から、鮫島さんがずっと追求しつづけていたことだそう。「私にとってこのコンセプトは、ライフワークでもあります。真の美しさって?という問いに『これだ!』という答えがあるわけではないんです。だからこそ面白いし、追求したい。ひとりの人間の中に、時代の空気感をとりいれたモードの最先端のような美への感受性もあれば、普遍的な美への感受性もある。いつも流行の服を身にまとっている人でも、月を見て『あれはもう古いよね』とか『10年前の美しさだね』なんて言わないですよね」



そして、「フェアトレードでありながらここまでラグジュアリーであることににこだわっているブランドは世界的にもほとんどないと思う」と語る鮫島さん。たしかに、エシカルやサステナブルを謳う企業やブランドは多く存在するものの、同じようにフェアトレードに取り組みながらもラグジュアリーに特化してこだわるブランドはあまり聞かない。「『かわいそうだから買う』というチャリティー色が強いブランドにはしたくなかったんです。心から気に入ってないのに買って、結局使わず捨ててしまったりしたら、それはやはり、『きれいなゴミ』なんです。私は本当にいい、みんなが憧れるようなものを作りたかった。ブランドとして付加価値の高い世界を確立したいという思いで経営しています」

人助けを自然とできる、エチオピアの人々

ブランドを立ち上げ、エチオピアに暮らして10年以上。エチオピアの魅力、好きなところは?と聞くと、「エチオピア人の助け合う精神」と鮫島さん。「エチオピアのみならず、アフリカ全般でみられる傾向かもしれないのですが、人助けのレベルが私たちの常識の範疇を超えているんですよ。例えばある友人は、子供の頃から頭がよくて村でも評判だったんです。でも彼の家は大学へ行くお金が潤沢にはなかった。そこで村の人々がみんなでお金を出し合って大学に行かせてあげたそうなんです。親とか親戚じゃなくて村の人にお金を出してもらうってすごくないですか。見返りを求めていないわけではなく、でもその見返りのタームが日本人の感覚よりロングスパンなんでしょうね。日本では、貸したほうも借りたほうもすぐに返さないとなんとなく気持ち悪いという人が多いんじゃないですか。でもこちらでは、自分が助けられるときは全力で助けてあげるし、借りるほうもそれを自然体で受け取る。そういうところはいいなと思っています」

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子育てをしているスタッフも多い

そして、エチオピアの女性たちがファッションや美容に関心がとても高いところも好きなところだそう。「日本も欧米に比べると、所得に対してファッションや美容にお金や時間をかけているほうだと思うのですが、エチオピアはそれ以上かもしれない。美しい民族衣装を身に纏い、ウィッグや大ぶりのジュエリーをつけている女性たちは、とても楽しそうです。美容も大好きで、ネイルも口紅も鮮やかなものをつけていますが、それを落とすクレンジングの方法などは、まだあまり知られていない。そもそもスキンケアという概念がまだ入ってきていないんですよね。『弘子はなぜそんなに肌がきれいなの?』なんて聞かれることも多いのでいろいろ教えてあげたりして、そんなやりとりも楽しいんです」

もちろん日本に比べるとインフラが整ってないところもあり、断水や停電もしょっちゅう。そういった生活面に関して大変なところもあるが、「そこはもともとわかっていたので気にならない」と、淡々と語る。休みはあるのかと問うと、「ほぼない」という回答。なぜ、そこまで情熱を注げるのだろうか。

「シンプルに、楽しいんです。ブランドとして大切にしていることが、『すべての人がハッピーであること』。作り手である工房の職人たちも、日本で働くスタッフたちも、andu ametの製品を長年ご愛用いただいているお客様も、携わる人すべてが幸せであることを目指しています。もちろん、私自身も。決してエチオピアのために自分を犠牲にしているわけではなく、自分が楽しいからこの仕事を続けています。楽しさの種類はいろいろあるけれど、刹那的な快楽だとか、目の前のエキサイティングな刺激ということではなく、ずっと続く幸せ、心から満ち足りていると思える幸せです」

鮫島さんにとって事業におけるゴールはない。時代が変容しつづける限り、パーフェクトな状態など存在せず、「よりよい方向」へと向かいつづけること。それは、どんなことでも同じかもしれない。


「フェアトレードといっても他よりちょっと高い給与を定期的に支払い続けるとか、より高い技術を指導をするといったことだけではなく、例えばスタッフが病気になったり、あるいはコロナや戦争のような緊急自体になったりした時でも彼らやその家族が生活でし続けられる仕組みづくりだとか、使っているエネルギーをどれだけ減らしていけるかとか、大量生産・消費のビジネスモデルにしないままでどのようにインパクトを拡大し続けられるかとか、課題は常にありますので、それを考え続けることが、自分の使命だと考えています」



andu ametでは、昨年、社会や環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証Bコープを取得した。


インタビューの最後、鮫島さんは素敵な言葉を教えてくれた。「昨年亡くなった祖母に、小さい頃からよく言われていた言葉があります。それは『自分ひとりだけの幸せってあり得ないんだよ』ということ。自分も幸せで、そのまわりも幸せで、みんなが幸せであることで、ようやく幸せは成り立つ。最近になってようやく、その意味がわかるようになってきました。以前も頭ではわかっていたつもりでしたが、若い頃はもっと自我が強く、その境地にたどり着いてなかったように感じます。今もまだまだ、理解しきれていないところもあるかもしれませんが、年を経るにつれて少しずつ腑に落ちるようになってきた、という感じでしょうか。幸せや豊かさにおいての、“人との境界線”が徐々になくなってきた気がします。エチオピアの人々のように、『誰かのためになることをしたい』という想いが、自然と溢れ出るようになってきました」


そして付け加えるように、「事業が安定してきたから、自分が安定してきたのもあるかもしれないですけどね」と笑った。10年という年月をかけて取り組んできたブランドの仕組みづくりがようやく形になってきたところだという。


ものづくりの魅力は、言葉で伝えきれないところはあるだろう。ぜひ一度、鮫島さんや職人たちが真摯な態度でつくりあげたプロダクトを手にとっていただきたい。そしてそのプロダクトに触れたとき、何を感じるのか。その感覚こそが、真実なのかもしれない。

@hiroko_anduamet
andu amet公式


取材・文/竹尾園美

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