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Career
「自ら縛りつけていた、“理想の母親像”」HASUNA代表・白木夏子さん
結婚や出産、そして仕事。女性はライフステージによって変容せざるをえない。でも、何かを諦めたり、我慢するのはいかがなものだろう。正解などはない。そんなことをテーマに、子育てしながらビジネスの最前線にいる女性たちを取材する「♯Can woman have it all?〜女性たちはすべてを手に入れられる?〜」。
2024.05.22公開
今回お話を伺ったのは、人や社会、環境に配慮されたエシカルジュエリーブランド「HASUNA」の代表・白木夏子さん。
白木さんは大学時代に見たインドの鉱山の劣悪な環境、そしてその環境で働くことを余儀なくされていた子どもたちのことが忘れられず、27歳のときに「HASUNA」を設立しました。当時はまだ“エシカル”や“サステナビリティー”という言葉がそこまで知られていた時代ではなく、まさに国内エシカルジュエリーのパイオニア的な存在です。
「ビジネスを通してより豊かな地球にすること」を理念に、現在は武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の教授として起業家のサポート、そのほか音声配信メディア「Voicy」や各地での講演など発信者としても活動。新しいビジネスを開拓しながら社会起業家として第一線で活躍しています。
そして、白木さんはブランドを立ち上げたあとはさまざまな国へと足を運び、その国の文化、そして世界中の女性たちと出会ってきました。
そこで感じたのは、ジェンダーギャップの壁。女性がとても活躍している国と、そうでもない国と両方見ることで、女性の在り方について考える機会が多くあったのは必然的でした。
そんな白木さん自身、2回の出産を通してさまざまな葛藤があったとか。白木さんは11歳と2歳、ふたりの娘さんのママ。
世界を相手に社会起業家として日々邁進しながらの子育てとは。果たしてどのようにして、その葛藤と向き合ってきたのでしょうか。
起業して3年がたったころ、30歳のときに初めての出産を経験しました。とにかく不安でしかたなくて、出産当日までシクシクと泣くことも多かったです。入院中も泣いてばかりで、「こんな私が子どもを育てられるのだろうか…」と嘆き、そんな自分が情けなく、自分を責めてしまいとっても辛かった。子どもに対しても罪悪感でいっぱいでした。
出産後はすぐに保育園に預けて働き始めました。とはいえ、仕事ができる時間は限られています。会議や出勤も最小限にしましたし、夜は家にいないといけないので、それまで何があっても駆けつけていた会食もなるべくお断りするように。それまで経営者にとって会食というコミュニケーションの時間は重要と思い込んでいたのですが、会食がぐっと減っても売り上げは変わりませんでしたね。会食する意味ってなんだったんだろう、と思います(笑)。そうやって「自分でやらなければならない」「これは事業に必要だ」と思い込んでいたものを、ひとつずつ手放していきました。
ターニングポイントは、第一子が4歳になるころ、母娘ふたりでヨーロッパ各国、シンガポールやマレーシア、香港にいるお友達に会いに行ったこと。この経験がきっかけで、とても心が楽になったのを覚えています。
家に遊びに行くとナニー(子どもを預かり、しつけをするプロフェッショナル)がいるのが当たり前だし、母親だけでなくまわりの人を巻き込んで、ひとつのチームとなり子育てをしていたんです。私が勝手に刷り込まれていた「理想の母親像」がいい意味で覆された瞬間です。
アフリカにあることわざで、「ひとりの子どもを育てるにはひとつの村がいる」という言葉があります。
これは、子育ても教育も誰かひとりの献身で成り立つものではなく、安心・安全の場で信頼できるコミュニティーのなかで、たくさんの大人たちに見守られて、手をかけるべき、という思想です。子どもを育てるにはそれだけたくさんの大人が必要ということ。借りられる手はすべて借りたほうがいいと思っています。
2021年、第2子を出産しました。第一子のときとは比べものにならないくらい余裕がありました。一回目の出産が新入社員というイメージだとしたら、2回目の出産は入社10年目のベテランという感じでしょうか。
このときは、おいしい食べ物をおなかがはちきれるほどたくさん食べたり、詩を読んだりと、自分へのご褒美の時間をたくさんとってあげていました。妊娠中はとにかく甘いものを食べたい衝動に駆られていて、「出産したら甘いものを好きなだけ食べるぞ!」と、おいしそうなスイーツの画像や行きたいお店リストを集めて楽しんだりもしていました。不思議なもので子どもを産んだ瞬間にそんな衝動はスコーンとなくなり、行きたいと思っていたお店にはまったく行ってないですが。
自分へのご褒美時間というものは出産後もとても大切だと思っていて、子育てで疲れたら実家に帰って親に子供を見てもらって自分はひたすらボーッとしたり、家族みんなで八ヶ岳へワーケーションをしにいって、自然のなかで子どもと遊びながら仕事もしたりと工夫していました。肩の力を抜いて、自分が楽しいことにフォーカスすることが大切であると、感じています。
ストレスが溜まってしまうと、旦那さんへの当たりがきつくなってしてしまいがちなので(笑)、物理的な距離をあえてつくるのも大切です。
ネガティブなことはフォーカスしすぎるとそのゾーンに入ってしまい止まらなくなってしまうものです。フランスの哲学者・アランの『幸福論』によると、「悲観は感情によるもの、楽観は意志によるもの」ということを述べています。
もし落ち込んだり苦しい気持ちの渦に巻き込まれたなら、能動的にいまの幸せを見つけにいくという作業が、必要なのだと思います。
正直なところ、子どもを産む前は電車内で誰かのお子さんがぐずって泣いたり騒いだりしていると、「大変そうだけど、静かにしてくれないかなぁ」と心のなかで思ってしまったこともありました。出産してからはママの大変な気持ちもわかるし、子どもが泣くのは当たり前のことだと理解ができて、なんなら「私が抱っこしましょうか?」と声をかけたい衝動に駆られるくらいです。
もちろん、自分の子どもが公共の場でぐずったときは迷惑をかけたくないので、その場を離れたり「静かにしなさい」と伝えますが。
いずれにせよ、どんな状況でも誰もが互いに寄り添えるような社会になるためには「想像力」が必要です。では、その想像力はどうすればできるようになるのか?
これは自論ですが、映画を見たり小説を読むことが効果的だと考えています。
映画や小説は、感情移入できるのでいろんな人の立場になって物事を考えられるようになります。当事者の意識を体感することで、多様な世界を理解できるようになり、少なくとも怒りや憎悪など、偏った方向には向かわないような気がします。
個人的にはドラマ『SEX AND THE CITY』が好きで。シングル、ママ、バツイチ、再婚だとかさまざまな立場の女性がたくさん出てくるので、多くの立場からの視点で考えさせられます。続編シリーズの『AND JUST LIKE THAT』では、50代になった彼女たちの物語。これからちょっと先の女性たちの姿として、参考にさせてもらっています。
映画や小説をすすめたものの、私自身がここ数年は仕事と子育てに忙殺され、エンタメに触れる機会がぐっと減ってしまっていました。ですので、今年はたくさん本を読んだり、映画を見ると決めています。
ここ数年は自分の学びの時間を犠牲にしてきてしまった。コロナも落ち着いたいま、なるべく海外に赴きたいと思っています。石の買い付けだけではなく、多くの国を訪れて知見を増やし、この世界を理解することに努めたい。その国の文化や遺産を見て視野を広げ、さまざまな国籍の方とディスカッションしたいと思っています。
『HASUNA』でも柔軟な働き方を制度として取り入れていっています。過去には不妊治療のためにお休みをとった子たちもいますし、お子さんが小学生になるまで専業主婦をしていたけど働きたいという方に少しずつ働いてもらって、キャリアを継続していただいたというケースもあります。
『HASUNA』を立ち上げたとき、ペルーやコロンビア、パキスタンやルワンダなど、できる限り採掘の現場に足を運んできました。そこで出会う女性たちの在り方は、国によってかなりの差があります。なかでもパキスタンやインドでは、女性の結婚に自由がなかったり、家での過ごし方が決まっていたりと、自由を奪われている国もあります。
「なんて理不尽な世の中なのだろう」。
シングルマザーで、暮らしがままならず子どもを売買している女性もいました。自由は奪われ、貧困にも苦しむ。実際に目の前でそんな衝撃を受ける現実世界を見ていると、「そんな世界があってはいけない」と思うのはごく自然な流れでした。
反対に、南米コロンビアの都市部ではフリーランスの人がとても多く、働き方がとても自由。経済的にも精神的にも自立した女性がたくさんいました。
「自立している女性は輝いている!」という印象があって、これは男女問わず子どもがいても働ける環境を自らがつくっていきたい、と思った原点でもあります。
「より豊かな地球、社会になるように」。起業してからの理念はずっと変わりません。子どもがいるからといって不都合になるような働き方になってしまうのはよくないと考えているので、自分自身の会社でも実現し、自社だけではなく、そういったダイバーシティを取り入れる企業が増えるよう、取り組んでいきたいと思っています。
取材・文/竹尾園美
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