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Interview

Career

「どんな“道”も一日にして成らず。日本の美を極めていきたい」 アメリカ・ロサンゼルス在住 財満直子・華道家/生け花講師

#海外で挑戦する女性 #海外で自分らしく暮らす

「海外で挑戦する女性たち」にフィーチャーする連載インタビュー。第一回目は、アメリカ・ロサンゼルス在住の華道家・生け花講師である財満直子さん。

2024.05.22公開

Naoko Zaima

広島県出身。中国・上海の大学へ留学後、アメリカ系台湾人との結婚を機に、夫の実家のあるアメリカ・カリフォルニア州へ移住。ロサンゼルス在住歴、19年。出産を経て、趣味のひとつとして草月流生け花と出会う。2017年、師範となる。2022年、「Inspired Ikebana: Modern Design Meets the Ancient Art of Japanese Flower Arrangement by Naoko Zaima」を上梓。一児の母。

@zaimanaoko



インタビューの場所は、ロサンゼルス・サンタモニカにある財満直子先生のご自宅。室内は、お香のよい香りで満たされ、財満さんが生けたお花が飾られています。「お茶はいかがですか」と、優しいながらもシャープさもある声で聞かれ、提案されたものをいただくことに同意したものの、出てきたのは「抹茶」。なんでも華道だけでなく、茶道も嗜むとのこと。恥ずかしながら茶道の作法がないことを詫びると、「ここはお教室ではないから、楽しく味わっていただければ」と柔らかく言い、とはいえ、さすが人にものを教える先生だから、なぜ茶碗をまわすのか、などのマナーについて簡潔に伝えて和ませてくださり、お茶の味と体験は苦々しいものでなくなった。

進むべき道は、自然と開かれるもの

華道家の道へ進むことになった理由は、不思議と呼べる転機がきっかけだったそう。上海への留学中に出会った旦那さまの出身地であるロサンゼルス郡のあるカリフォルニア州へ結婚後に移住し、義理の両親から日本とは違う料理や文化を学んだり、友人もいないなか孤軍奮闘したりした。住むとは予想もしていなかった土地だけれど、日本人コミュニティも豊かで、想像以上に住みやすく、すぐに馴染むことができた。たまたま訪れた、ロサンゼルス郡の隣にあるオレンジ郡のラグナビーチで可愛らしい空き店舗に出会ったことから、セレクトショップをオープン。インテリアやアパレルだけでなく、自身がデザインしたジュエリーも取り扱った。ジュエリーのデザインは、自分の感性が活かせる仕事だと思い、デザイナーや彫金師としての腕を磨いた。オープンから4年ほどして、日本にいる父の余命が長くないこと、そして出産を控えていたことから、店を一旦クローズすることを決めて日本へ帰国した。

その後、父を見送り、息子を迎え、日本から戻ってロサンゼルスのウエストサイド(サンタモニカなどがある最西端のエリア)に引っ越ししたころ、草月流生け花の先生と出会う。その時期でも、オンラインで販売するなど、ジュエリーの製作は続けていた。それから数年以内の2017年、草月師範の資格を取得。その3年後、親先生から生徒さんを紹介されたことで、草月流生け花のクラスをいきなり開講することになった。まさか、ジュエリーデザイナーではなく、生け花の先生という肩書きをもつことになるとは。


「けれど、人生って不思議ですね。執着のように、絶対ジュエリー製作が自分には合っているんだと思っていたけれど、パンデミックが始まり、ジュエリー関連の仕事は停滞してしまった。一方、同じタイミングで始まった生け花クラスでは、生徒さんは増えるばかりで、スムーズに物事が進んでいったんです。いろいろなことがうまくいっただけでなく、生け花が好きだったから、楽しく続けていけました。ちょっぴり強引ではあったものの、“私にとって正しい道”へ軌道修正された気がして、執着を手放せば、進むべき道へは自然ときちんと導かれるものなのだと実感しました。パンデミックだけでなく、さまざまな要因において私がすべきはジュエリーではないのだ、と固執を手放すことができたときの快感をいまだに覚えています」

ロサンゼルスの太陽の下、千里の道も一歩から

日本人と日本人以外の生徒さんの一番の違いは、「お教室に1回あるいは数回、数カ月通ったら、もう生け花がマスターできるように思っているかどうか」だそう。「ありとあらゆる道、華道、茶道、きっと書道や武道などもそうだと思いますが、そういった道の探求はある一定の時間、鍛錬が必要なものという感覚が、日本人には備わっているように感じることが多いです。日本人以外の生徒さんには、クラスの最初に、今日1日でできるようにはならないものです、とご説明します。修行とまでつらいものでなくてもよいけれど、上達するには切磋琢磨して、続けてみることは必要です、と華道の精神をお話します。長い目でみてくださいね、と」。

インスタグラムの投稿とアカウントが目に止まり、本を出さないかと2021年に出版社から声がかかった。「生け花は、“ライフタイム・ラーニング”(一生の学び)です」。約1年の制作期間を経て出版された本の巻頭にもそのメッセージは記され、「いつか、誰かの目に留まればいいな、と思います」とほほ笑んだ。

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生けたお花に上梓した本を添えて

それでも、ロサンゼルス、特に財満さんの住むウエストサイドのエリアでは、そういった日本の道やマインドへの理解が深い、とよく感じるという。「日本人が見落としがちな日本の文化、芸術性を尊敬してくれます。美的センスの高い方が多く、日本人の私以上に禅やわびさびを理解している人もたくさんいらっしゃいますし、自然体でカッコいい女性もまわりにたくさんいるので、そういった品格のある、オトナで素敵な女性たちから学ぶこともあって楽しいですね。だから歴史の中で、差別や不遇に耐えてきた日系の方たちに感謝しています。あなたたちのおかげで、いまの私たちがありますと」。

住むエリアによって特徴があり、だからこそそのエリアが好きで選んでいると公言できるのは、“海外に住んでいるあるある”ではあるものの、ロサンゼルスに住んでいる魅力も、そういった部分に感じているそう。「天候がよく、すぐに行くことができるビーチで海や夕日を眺めていると、気分が落ち込み過ぎない。底抜けに明るい空などを見ていると、心が晴れていくのを感じます。温暖で過ごしやすいところが、ロサンゼルス最大の魅力ですね」


良いか悪いかではなく、住んでいて肌で感じるのは、日本が多神教であること。神様や正解はひとつではない。生徒さんには、生け花の基本や技巧はもちろん教えるけれど、「自然にリスペクトを込める」ことが大事で、そのうえで「表立って見えない華道のマナーを知り、ゆっくり自然を慈しみ、五感を使って花と会話をする」ことを伝授する。「私にとっては、合理性を追求するのはあまり美しいことではないんです。感性を磨き、心を反映させる。それは派手でもなく、大胆でもないかもしれないけれど、そのようなマインドこそ美しい。深くお辞儀をするなど、なんてことはない動作かもしれないけれど、私が華道で表現したいのは、自然の癒し、心の平安。“静の美”なのだと思います」

冒険力のある日本人は世界で通用する美しさがある

逆を言えば、アメリカ人の長所は動の中にある。失敗を恐れず、大胆で、挑戦する能力に長けている。「けれど、日本を離れて20年近く海外で暮らしていると、日本人の礼儀やおもてなしの心、敬意の持ち方など、素晴らしい素質がたくさんあることにあらためて気づかされます。真面目で控えめなのは長所でもあるけれど、英語力がネイティブレベルではなくても下手に出ることをせず、アメリカ人と対等に渡り合える姿勢があるといいのかもしれません。個々の能力は決して引けをとりませんから。語学力もある程度は身につけたうえで、海外で暮らす日本人に必要なのは、堂々とした振る舞いと、チャレンジ精神というか冒険力でしょうか」



これから海外で暮らすことを目指す人、あるいは“若者”へのアドバイスは、ずばり「自立できる生活力をもつこと」だそう。どんな仕事でもよいから、ジェンダーや年齢に関わらず仕事をもち、自分でお金を稼いでみること。精神的にも経済的にも自立し、自分で自分を自由にして、幸せにする。「どんな仕事や職業でも尊いわけですから職を持ち、飾り過ぎず、気負わず、自立している人がどの人種でも美しくてカッコいい人だと感じますね」


これからも、ロサンゼルスのぽかぽか陽気のなか、着物を身に纏い、お茶を点て、生け花を通じて、華道と日本の魅力を伝えていきたい。「体が動かなくなるまで、お花もお茶も続けていくのが目標。ずっと“超日本人”でここで生きていきたいんですよね」と述べながら、おかわりのお茶を差し出すしぐさは、誰よりもしとやかで華やかだった。

@zaimanaoko



取材・文/八木橋恵

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