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市民性を育てる「シティズンシップ教育」って?その概念と学校教育の今後とは

シティズンシップ教育という言葉を聞いたことはありますか?世界的にその必要性が高まっているという、シティズンシップ教育に関する内容を、詳しくまとめてみました。シティズンシップの意味や、海外と日本における実際の取り組み例と一緒に、ぜひチェックしてみてください。

2021.04.10公開

シティズンシップとは?

①もともとは市民権を意味する言葉

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「シティズンシップ教育」に含まれる、「シティズンシップ(Citizenship)」とは、市民権を意味する言葉。国籍を有する国民または市民であることを表すと同時に、市民としての資格を表す言葉になります。

市民としての資格とは、権利や義務のこと。参政権が最も代表的な権利になりますね。ちなみに、シティズンシップにおける義務は、歴史を経て変わるものだとされています。古くは兵役が代表的な義務でした。現代では、環境問題や貧困問題への対策といった社会全体への貢献が、世界的にも義務とみなされるようになりつつあります。

②市民性という意味を含むように

市民権を意味する「シティズンシップ」は、時代の流れとともに、「市民性」という意味も含むようになりました。市民性では、市民として、いかに社会に参加するのかという点が問われます。より良い社会の実現のために、周囲と積極的に関わろうとする意欲や行動力が重要視されるようになってきたのです。

③シティズンシップ教育という概念が誕生

このように様々な意味合いを含むシティズンシップから、「シティズンシップ教育」という概念が誕生。「シティズンシップ教育」とは、市民として必要な要素を身につけ、十分な役割を果たせるようになることを目指すものと定義されます。先進国であるイギリスやアメリカなどを始め、日本でも必要性が話題に上がるようになりました。

教育が必要とされる背景には、若い世代の就業意識の低下や社会的無力感、政治への無関心といったものが。社会的責任や社会参加、政治リテラシーに関する教育を行わなければ、このままでは民主主義社会の将来が危ない、と考えられるようになったためだと言われています。

また、「シティズンシップ教育」は、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも必要な要素。17あるうちの4つ目の目標では、質の高い教育の確保が掲げられています。とくにターゲットの中に盛り込まれている「グローバルシティズンシップ」を育むことは、地球単位で人々の暮らしをより良くするために重要視されているものになります。

Point

SDGsの目標4とは

SDGsの目標4は、「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」ことを目指したもの。10個のターゲットから構成されていて、グローバルシティズンシップは、目標4の7個目のターゲットで扱われています。

SDGs|目標4 質の高い教育をみんなに|すべての課題解決の為に

シティズンシップ教育で学ぶこと

社会的・倫理的責任感

社会的・倫理的責任感は、シティズンシップ教育で学ぶことの一つ。1998年にイギリス政府の市民教育助言委員会が提案したもので、シティズンシップ教育には、学ぶべき3つの実践課題があるとしています。座学ではなく実際の社会の課題を取り出し、疑問を投げかけたり、意見を言い合ったりして身につけていくことが目的。

社会的・倫理的責任感とは、学校の内外で児童・生徒が社会的・道徳的に責任のある行動が取れることを目指したもの。例えば、壁の落書きを課題として取り扱った場合、「なぜ書かれたのか」、「どのような結果をもたらすのか」、「どんな損失が生じるのか」といった点を考えていく活動が挙げられます。

地域社会への参加

地域活動に参加する女性

シティズンシップ教育では、地域社会への参加についても学びます。隣人の生活や地域社会に関心を払い、社会に貢献できるよう活動を行います。

例えば、移民が多い地域では、それぞれの差異や多様性に目を向け、共生について考える課題などが挙げられますね。また、ボランティアに参加することは、ポピュラーな活動の一つになります。地域社会への理解を促進し、自分に何ができるかを考えていくことが重要だと言われています。

政治リテラシー

政治リテラシーも、学ぶべき内容の一つに含まれます。政治リテラシーとは、民主社会に関する知識や技能の習得、および活用方法を学ぶもの。実践課題を通して、国や社会生活の中で運用することを身につけていきます。

日本での公民教育でも、政治や経済の仕組みなどを学習しますが、あくまで座学がメイン。シティズンシップ教育では、政治に参加する技能、仕組み作りへの考え方、コミュニケーションの方法などについても学びます。どのように情報収集をし、どのように活用し、どのように合意に持ち込むかといった実践的な内容になります。

イギリス 多様な教育と子どもたち 第15回 シティズンシップ・エデュケーション(市民教育)

海外におけるシティズンシップ教育の取り組み例

イギリスの場合

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イギリスは、シティズンシップ教育の先駆けとなった国の一つ。イギリスでの取り組みを通して、シティズンシップ教育という概念も有名になったと言われています。

イギリスにおけるシティズンシップ教育は、1997年頃に、若者の政治への無関心や投票率の低さを改善する目標で導入されました。2002年には必修化し、10歳からの16歳までの期間に学校で学ぶように。主に社会の仕組みへの理解や、社会参加のための技能を身につけることを重視しています。

学校での授業内容は、エビデンス、ディベート、根拠に基づいた議論を大切にしていることが特徴。それぞれの役割を理解しながら、政治的・社会的な課題に対して批判し、議論できるようになることを目指します。また、実践する教師を支援する団体もあり、情報提供や研修の実施も行われています。

TAGGED IN Citizenship

アメリカの場合

アメリカでも、1990年代から若者の政治関心の低さをきっかけに教育が取り入れられるようになりました。アメリカでの取り組みは、州や学校ごとに委ねられていることが特徴。州政府と学校、市民団体などが協力し、それぞれの役割を果たしながら、推進しています。

特に注目されるのは、アメリカのミネソタ州で行われた、公民教育の授業に「パブリック・アチーブメント」を導入した取り組み。パブリック・アチーブメントとは、問題解決型のプロジェクトを用いたシティズンシップ教育の実践の一つ。社会活動を通して、仕組みづくりや問題への取り組み方、解決方法を探っていきます。

フランスの場合

フランスも、イギリスやアメリカとほぼ時期にシティズンシップ教育を導入しています。フランスの場合、アメリカ以上の移民大国であるという背景から、民族・文化・価値観が多様化。そのため、フランス市民としての価値観を持ち、役割を果たすための教育が必要とされるようになりました。

内容としては、「人権と市民性の教育」「責任感や市民的義務を身につける教育」「判断力を養う教育」が重点目標として挙げられるように。もともとあった公民教育を市民性教育として、1996年から取り入れました。政治の仕組み理解や参加の促進よりも、市民としての役割理解を重視していることが特徴。

フランスのシティズンシップ教育

日本におけるシティズンシップ教育の取り組み例

教育機関での取り組み

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日本での取り組み例は、教育機関が独自に取り入れているものが目立ちます。とくに知られているのが、お茶の水女子大学付属小学校の取り組み。「市民」という教科を取り入れ、日本におけるシティズンシップ教育の先進的実践例として注目を集めました。

「市民」の授業内容は、自らの考え方を出力する力を育むことに重点を置いたもの。実際の政治的・社会的な課題を扱い、具体的なデータを用いて論理的に説明したり、批判したりしながら議論を進めます。政治的・社会的な仕組みや、それぞれの役割に対する理解を深め、実践しているのですね。

第72回お茶の水女子大学附属小学校 教育実際指導研究会

地域での取り組み

地域における日本のシティズンシップ教育の取り組み例としては、東京都品川区で行われている「市民科」学習が有名。教養豊かで品格のある人間を育てることを目標に、小中学校の児童・生徒を対象に行っています。

学習内容には段階があり、1・2学年では「基本的生活習慣と規範意識」を育む内容を、3・4学年で「より良い生活への態度育成」を学びます。5~7学年で「社会的行動力の基礎」を、最終段階となる8・9学年では、「市民意識の醸成と将来の生き方」を学習。従来の公民教育よりも、実学的な内容を目指しています。

品川区 新しい学習「市民科」

文部科学省での取り組み

文部科学省においては、2022年から高校教育の学習指導要領の改定を経て、「公共」の授業を必須科目にすることに。従来の公民教育の科目を刷新し、新科目として据えられます。

公民教育が刷新され、「公共」が取り入れられる背景には、選挙権を持つ年齢が18歳に下がったことが挙げられます。高校生という立場でも、選挙権を持つ者としての自覚や役割を教育する必要性が生じてきたのです。

内容は、従来の公民教育とは異なり、実践的になることが特徴。「世の中の仕組みを知る」ことを中心に、討論やディベートを行ったり、模擬選挙や投票、模擬裁判を取り入れたりすることが考えられています。

高等学校公民科における科目構成及び新必履修科目「公共(仮称)」の方向性として考えられる構成(素案)

シティズンシップ教育はこれからの必修科目

ディスカッションの様子

シティズンシップ教育の必要性は、海外においても日本においても高まっています。すでに必修化している国もあり、日本でも2022年からは高校教育でシティズンシップに関する科目が据えられる予定です。

学生にとって、社会参加や政治への理解促進は絶対に必要なことと考えられているのですね。まずは、これからの必須科目となるシティズンシップ教育の概念を知ることから始めてみましょう。

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