「性にまつわるモヤモヤ」を漫画で読み解くメディア『PALETTALK(パレットーク)』。TwitterやInstagramなどSNSを中心に、実話に基づくストーリーでLGBTQやフェミニズムについて、分かりやすく紹介しています。
今回はパレットーク編集長のAYAさん、副編集長の伊藤まりさんをお招きして、お二人がジェンダーやフェミニズムを意識しはじめたきっかけや、パレットーク立ち上げ当時と今を比較したジェンダーやフェミニズムを取り巻く世の中の変化、今後のヴィジョンなどについてたっぷり伺いました。
実は、お二人が一緒にインタビューに参加するのは初めてだそう!貴重なインタビューの様子をお届けします。
パレットークの立ち上げのきっかけは?
実は元々は、別の会社でやっていた事業なんです。 その会社が薄毛などコンプレックス系のメディアを運営していて、メディアの立ち上げが得意な会社で。その一環で、上場企業の子会社として、セクシュアリティやジェンダーに触れるメディアを作ることになりスタートしました。 最初は当事者向けに「こういう悩みがあるかもしれないよね」という発信をしようとしたのですが、セクシュアリティ、ジェンダーについて知識を多くの人に持ってもらい、当事者よりも周りが変わっていくことがすごく大事だなと思って、当事者を取り巻く周りの人にも伝わる形で発信してくことになりました。 私含め編集部のセクシュアリティやジェンダーはさまざまなのでLGBTに関することはわかる部分が大きいのですが、こういった発信の中でフェミニズムも一緒に考えなきゃいけない。 そこで入ってくれたのが、伊藤です。当時は大学生インターンでそのまま入社してくれました。
実は、皆さんが就職活動を終えたくらいの時に、インターンを探していて(笑) フェミニズムやジェンダーについての発信や活動ができるところがいいなとライター募集を探していたところ、見つけたのがパレットークでした。「これだ!」と思ってすぐ応募しましたね。
彼女は学生時代、フェミニズムをアカデミックに頑張ってきたタイプだから、記事を書いてもらうと、初めは全部論文みたいだったんですよ(笑) どうしようかなと考えていたときに、イラストのノウハウを持ってる人もいたので、「漫画」という形で発信していくことに。今から3年前ですね。
お二人はプライベートでもLGBTやフェミニズムに関する発信をしていらっしゃいますよね。元々こういったトピックに興味を持ったきっかけや、原体験について教えてください。
一番初めにフェミニズムに興味を持ったのは、幼稚園の頃。私は兄がいるんですが、周りからの兄と私に対するの対応の差に小さい頃からもやもやしていて。 例えば、ランドセル。私は黒がよかったけど、当時は女の子=赤、男の子=黒がほとんどで、父親に反対されて。しょうがなく妥協して、中間のワインレッドのランドセルを選んだ経験がありました。その時に、性別で決めつけられるのは嫌だなと感じたんですよね。元々の勝気な性格もあると思いますが(笑)
彼女は結構そうやって、自分が疑問に思ったら「なんで?」と言えるタイプだけど、私はひそかに落ち込んできたタイプ。 私は幼い頃からレンジャーが大好きだったんですが、どんなおもちゃを選ぶかによって、親や周りからの反応が違うなと感じていました。セーラームーンなど女の子らしいものも好きだったので、それを選んだときの親からの反応と、レンジャーのグッズを選んだ時の反応が、違うなって。 私は両方好きで、両方遊びたいけど、幼いながらに周りからのプレッシャーを感じてしまっていたのかな。そういう僅かでも心理的な負荷をかけつづけられると、沈黙していくんです。だから今、その時感じたことをメディアで爆発させている感じです。
人それぞれ考え方や自分の置かれている状況によって、違った原体験がありますもんね。
そうなんですよ。なので社内でも幼い頃の話をよくします。ずっと人生の話をしてます。 私の人生はこうなんだと。 話しすぎていて、編集部のみんなの家族もどんなタイプが分かるほど! 「こんな時、○○さんのお父さんだったらこう言いそうだよね」とか。一度もお会いしたことないのに(笑)全然違う人生を歩んで、経験したことも違うはずなのに、ぶつかる壁が一緒で共感し合えたりするので、面白いです。
社内での会話がコンテンツになることも。
パレットークさんの投稿はどれも、リアルで個人のストーリーに沿っていて、自分事として捉えられると感じます。ネタ集めは、チームの皆さんの過去の経験などから?
結構多いですね。メンバーやメンバーの周りから聞いたことも多いです。 類は友を呼ぶので、20代後半の女性に集中している部分もあるので、幅広い世代の方にもっとインタビューしたりして聞いていきたいです。 一般募集もしています。お寄せいただいたエピソードを漫画にすることも。
様々な角度から発信を続ける中で、一番反響が大きかったストーリーについて教えてください
元々一緒に働いていた仲間の話なんですが、病気で倒れて救急車で運ばれたときに、緊急連絡先として同性パートナーにお知らせしたときに、同性パートナーは受け付けられないと拒否されて、救急車から降りたというエピソード。 やっぱり、命の危機にある不安なときに自分とパートナーとの関係を認めてもらえないということが、どれだけダメージを受けるかということで、反響がありましたね。 政治家の方も取り上げてくださったり、メディアの取材もありました。
こういった事実に基づく衝撃的な内容は反響も大きいのですが、普段の生活の中で感じる小さなモヤモヤもちゃんとお伝えしなければと思っています。
今回書籍も販売されるということですごく楽しみです!今まで発表されたストーリーを厳選して書籍化されたんですか?
ありがとうございます。 より幅広い世代の皆さんにお届けするために、普段使う用語もさらに分かりやすく、噛み砕いて表現するよう心がけました。 今までのストーリーから厳選したものにプラスして、書き下ろしや、ワークができるコンテンツも入れています。 今回のこだわりは、漫画の後に理解を深められる深掘り資料を追加していること。かなり読み応えのある内容になっています。
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パレットークを立ち上げて3年目とのことですが、立ち上げ当時と今を比較して、ジェンダーやセクシュアリティに関する世の中の考えの変化など感じますか?
感じますね。メディアの発信で思うのは、評価される漫画の種類の変化。 最初は「10人に1人がLGBTで、AB型と同じくらいの割合です」といった内容が評判で 「知らなかった!そんなにいるの?」という反響だったのですが、そのフェーズはもうこの2-3年で終わったのかなと。基本的なことは、既にご存知の方も多くなってきている印象です。
SDGsの広がりもあって、「知ること」のもう一歩先をいく、「じゃあ自分はどう振る舞う?」とか「企業はどう対応すべき?」といった話題が増えてきているなと。 少しずつですが現代を生きる人たちにとって、近い話題として自分事化できる話題に変わってきている気がします。
あとSNSのプロフィールに「フェミニスト」「LGBT」「アライ(LGBT当事者たちに寄り添いたいと考え、支援する人のこと)」などと書いている人が本当に増えた!5年前はあまり見かけなかったです。これって急に変わったわけではなくて、ずっと頑張って発信してきた人がいるからこそ。そこが一番大事だし、スポットを当てていきたいです。
SNSが生活に根付いてきて、「個の発信」が重要視される時代が来ていると思っています。 自分はこうです、とか私は周りとこう違います、ということを一人一人どんどん発信することが評価される時代になってきていて、多様な人がいて当たり前という認識になってきているのかなと。 その流れによって、フェミニズムや多様性の話も自分事として捉えられるようになってきたんだと思うんですよ。だからこの流れは更に加速すると思います。
今後のパレットークとしてのビジョンはありますか?
やりたいこといっぱいあります!カフェとか。 今は、以前からやりたいと思っていた本のことで精一杯ですが(笑)ふと思いついた「面白いこと」をできる土台を整えたいですね。 コロナで制限のある生活を強いられる中で、まずは私達中の人が生き生きと活動できる、新しいことにチャレンジできるような環境を作りたいです。
世の中が何となく多様性やジェンダーについて知るようになったからこそ、専門家や研究者の方との架け橋になれたらと思っています。いろいろな立場の人が行き来ができるようなプラットフォームにしていけたら。
一番は、私達作り手側や、読んでくれる方々の居場所であり続けるということ。 メンバーには本当に恵まれていて、ありがたいです。
日頃、嫌なこととかあるじゃないですか。そんなときに会社に行って、こういうことがあったんだって話すと、ひどかったねーってみんな共感してくれるんです。それが心地よくて嬉しくて。一人一人の小さなモヤモヤ経験も軽視しないということが会社の空気としてあるんです。
素敵な会社!素晴らしいチームワークがあるからこそ、多くの人に愛されるコンテンツ、メディアが作られているんですね。最後に、my-muse読者の皆さんにメッセージをお願いします。
社会を構成する一人として、もし受け取ってもらったメッセージがいいなと思っていただけたら、何か行動に移してほしいと思っています。 例えば、「同性婚いいじゃん」と思ったら、思っているだけじゃなくて、そういった会話が出たときに「いいと思っている」と自ら伝えてみたり、署名をしてみたり、選挙に行ってみたり。 「そんなの私一人がやっても意味ないじゃん」って思う方もいるかもしれません。でも全員がそう思っていたら現状は何も変わらないので、少しでも動き出してほしい。 私たち自身も、皆さんのアクションのお手伝いができたらいいなと思っています。
よく、パレット―クに「同性婚などLGBTの権利を応援したいけど何ができますか?」という質問をいただきます。私は、毎日がアクティビズムになりうるなと思っていて。 例えば、目の前で「え、女の子同士で付き合うの?」みたいな発言があった時に、ちょっと一言注意するとか、言えなかったとしても同調しないとか。 それだけでも、もしそこに当事者がいたら安心するし、日常の中で変化を起こすことはいくらでもできるのかなと。そのヒントみたいなものを、パレット―クでも出していきたいです。 何となく差別はダメ、とわかっていても、その理由をうまく説明できないときなどにも参考にしてもらえたら。
うまく説明できないときすごく多い。私たちも、こういう例もあって・・・と資料があれば話しやすいしので、それと同じように日常会話でさっと出せる武器になれたらいいなと思っています。私達の投稿をリツイートしてくださる方も多いですね!一番シンプルで簡単な意思表示だと思うので、おすすめです。
LGBTQやフェミニズムについて漫画で分かりやすく伝えるメディア
平成4年生まれ。起業家。「らしく生きるを、もっと選びやすく」をテーマにメディアやマッチング事業を展開。漫画でわかるLGBTメディア「パレットーク」編集長をつとめる傍ら、ダイバーシティ&インクルージョンやフェミニズムに関しての執筆や登壇を行う。
東京生まれ。早稲田大学卒業。編集ライター。大学在学中よりフェミニズム活動に参加し、署名活動やパフォーマンス、レクチャーなどを行う。ウェブメディア「パレットーク」副編集長をつとめる傍ら、ジェンダーやフェミニズムに関しての執筆や登壇を行う。
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