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元添乗員が選ぶ 真っ先に行きたい海外 ~消えゆく美しい都市編~
世界には、戦争、環境問題、政治的理由などで本来の姿が失われつつある場所がいくつもあります。極めて脆く儚いその姿は、時にドキリとするほど美しく、一度は目に焼き付けておきたいものばかりです。真っ先に行きたい海外シリーズ。今回は、そんな消えゆく美しい都市(街や村)を5つ選りすぐってご紹介しましょう。
2021.02.17公開
砂漠の国としては雨量も多く、かつて「幸福のアラビア」とうたわれていた中東の国イエメン。そんなイエメンの首都サナアには、一度見たら忘れられない風景があります。粘土と煉瓦のみでできた高層建築群は「世界最古の摩天楼」とも言われ、なんと古いもので1000年以上の歴史があるのだとか。
ピンクがかったアイボリーに統一されたモノトーンな街並み、白い漆喰で施された精巧な飾り細工は溜息がでるほど美しく、まるでお菓子のデコレーションのよう。しかし、残念ながら現在は空爆や洪水の影響で倒壊の危機に晒されています。消えゆく美しい摩天楼。どこか脆さを感じるその姿は、いつか本物の幻となってしまうのでしょうか。
イタリア中部、オリーブやブドウの畑が広がる長閑な丘陵地帯に、まるで浮かんでいるような姿で現れるチヴィタ・ディ・バーニョレジョ。このごく小さな村には、なんと古代ローマ時代を更に遡り2000年を超える歴史があります。しかし、凝灰岩でできた台地は地震や風雨によって浸食され続け、いつしか天空に取り残されたかのように。
村へ渡る唯一の手段は長さ300メートルの橋1本のみ。その独特の姿が注目を浴び観光客が増えた一方で、村の土台となる凝灰岩は刻一刻と浸食されつつあります。その脆く美しい姿とともに、気の遠くなるような長い歴史の幕もいつか閉じてしまうのでしょうか。
スペインに続きアメリカからの独立をも革命で勝ち取り、独立独歩の歴史を歩んできたキューバ。永らく鎖国状態にあったことから変わりゆく時代の変化から取り残されてきました。
特にハバナの旧市街(オールド・ハバナ)は、首都にも関わらず驚くほどに朽ち果てた街並み、年代物のクラシックカーが走る様子はまるで時が止まったかのよう。
2015年アメリカとの国交回復後、徐々に押し寄せる文明の波はこの街を変えるのか、それとも守り抜くことができるのか。古びて剥げた廃墟の間を排気ガスたっぷりのポンコツ車が走る光景は、時に驚くほど美しく、尊いものに感じるのです。
中国四川省の秘境にありながら、チベット仏教の聖地として多くの僧侶が暮らしてきたラルンガルゴンパ。標高4000メートルの高山に、一面真っ赤な家々が張り付いています。これらは全てチベット仏教の僧侶の住居や寺院など。僧侶の袈裟も赤いため、遠くから眺めると異様な程に赤一色の絶景が広がっています。
しかし、中国政府当局により現在は外国人の立ち入りが禁じられ、再教育による僧侶たちの思想替えや、建物を取り壊すことによって全く新しい街へ変貌させようという計画が進んでいます。
いつかまた訪れることができるようになった時、紅の宗教都市はどのような変貌を遂げているのでしょうか。連綿と受け継がれてきた信仰だけは、どうか失わないで欲しいと願うばかりです。
世界で最も美しい水上都市、ヴェネツィアを知らない方はいないでしょう。張り巡らされた運河、細い路地、車が全く存在しない水の都の美しさは、万人に等しく感動を与えます。
そんなヴェネツィアは海中の「潟(ラグーナ)」に打ち込まれた木製の杭によって、実に1500年もの間街の土台が支えられてきました。しかし、近年環境汚染や温暖化などの影響で、このままでは街まるごと水没してしまうと言われています。
そこで対策として打ち出されたのが「モーゼ計画」。巨大な防水壁によって街を水害から守ろうという壮大な計画ですが、汚職事件や経済危機の影響で17年もの歳月を費やし、2020年10月にようやく始動しました。一応の完成はみたものの、完全なる始動には更に数年を要するのだとか。
果たして文明はこの美しい水の都を救うことができるのでしょうか。かつて地中海の覇者として君臨した海洋王国ヴェネツィアの意地とプライドは、現代の私たちの手にかかっているのかもしれません。
世界の消えゆく美しい都市5選はいかがだったでしょうか。いずれも他では見ることのできない唯一無二の景観や歴史、文化を持つ場所ばかりです。これらは全て古の人々によって造り上げられたものであると同時に、それを壊そうとしているのもまた同じ人間なのです。世界から1つ、また1つと失われつつある美しい都市。いつか訪れるその時まで、姿を留めていてくれるでしょうか。
元海外旅行添乗員。1児の母時々旅ライター。LINEトラベルjp、ANA、HIS等旅系サイト、25ans、oggi等女性誌、ビジネス誌などに寄稿。
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